No.460 Jan.17 2020 Agent-Based Modelで感染症伝搬の時空間シミレーション, GIS シリーズ No.3(後半)with Jeon-Young and M. Wataru

イリノイ大学は冬休みも終わり新学期

日本は、今週末は「大学入試センター試験」(来年から「大学入学共通テスト」)が実施されています。U-Cは、1月20日( 月)Martin Luther King Jr. Dayが終わると、イリノイ大学も新学期が始まります。

阪神淡路大震災から25年

今日の放送は、WRFU StudioからはTomさん、日本のSaitamaからRyutaさん、KyotoからはMugikoがオンラインで 出演し、ました。昨日、2020年1月17日は、1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災から25年が経ちました。神戸新聞NEXT「25年の教訓『災前の備え』『阪神・淡路』再考のとき」2020/1/17 22:50

阪神淡路大震災とGIS

阪神淡路大震災からもう25年も経つんですね。私は当時、幼稚園児で名古屋に住んでいて、家族の話では名古屋でも結構揺れて(食器棚の皿がカタカタして落ちそうな程)、結構怖かったとのこと。ちなみに、日本が国の政策としてGISを取り上げ始めたのは、実は阪神淡路大震災がきっかけです。(「地理空間情報活用推進基本法制定の背景、経緯」)(阪神淡路大震災はArcGIS ストーリーマップで以下のようなコンテンツもあります。【地図】阪神・淡路大震災の記録:■ビル・商業施設、■鉄道・駅、道路、みなと、■火災、液状化、■復旧・復興by Wataru

Part1, 健康地理学とは、図書館とGIS普及促進、分野横断型センター

先週は、イリノイ大学地理学部所属のJeon-Young(チャンヨン)さん(ポスドク)とWataruさん(博士2年)をWRFUのスタジオに迎えて GIS トークシリーズ第3回として健康地理学をテーマにお話を伺いました(HS No.459)。本日は、そのトークの後半をお届けします。以下、Wataruさんにまとめていただきました。

健康地理学とは

おさらいとして、健康地理学は、健康に関する空間情報を分析する学問分野で、疾病の空間分布を調べる研究(空間疫学)が例にあがります。その有名な事例として先週John Snowのコレラマップを紹介しました。その他にも、医療施設や健康的な食料品への近接性を調べたり、地域ごとの環境汚染物質量を測ったり、都市の歩きやすさと肥満との関係を明らかにしたりすることも健康地理学に含まれ、近年アメリカ地理学会では最も注目されている研究分野の1つです。

図書館とGIS普及促進 by Ryuta

後半はRyutaさんのGISに関するこんなコメントから始まりました。「(Ryutaさんがかつて図書館司書としてお勤めだった)ワシントン大学セントルイス校では、Public Health(公衆衛生学)が有名で、その研究にGISがよく利用されています。また、ワシントン大学セントルイス校では地理学部が無いこともあって、図書館が主導でGISの普及促進を担っていて、GISソフトウェアの使い方講習会や、関連データの保有および提供サービスをおこなっています。実際、Public Healthの学生や教職員がよくGISソフト操作法を図書館員に尋ねてきて、病院や健康食へのアクセスの良さを測る研究等にGISを活用している姿を見ました」とのこと。

イリノイ大学でのGISイベント、サービス提供

Jeon-Youngさんの話では、全米で地理が学部として独立して現存しているのはわずか数十校なので、地理学部が無い大学だと特に図書館が中心となってGISの普及促進を担当しているように思うとのことでした。あと、イリノイ大学もGISシリーズ第2回(HS No.451)で紹介したように、Scholarly Commonsという図書館の一部署が地理学部と連携してGIS DayなどのGISイベントやサービスを提供しています。大学図書館が学内のGIS普及の中心的役割を担っているのはアメリカならではかもしれません。

GISの普及促進のための分野横断型の研究センター

地理学部や図書館の他に、GISの普及促進のために分野横断型の研究センターを設立するケースもあります。例えばJeon-Youngさんがいたニューヨーク州立大学バッファロー校にはNCGIA(National Center for Geographic Information and Analysis:国立地理情報分析センター)という有名なGISの研究拠点が30年前からあり、世界のGIS研究・教育を牽引しています。このセンターには地理学部の教員や学生のみでなく、様々な学部の教授陣が参加しています。日本の東京大学もCSIS(空間情報科学研究センター)を20年前に設立しました。こちらのメンバーも都市工学、理学、情報工学、経済学と多様です。まとめby Wataru

Part2, Agent Based Model,イリノイ大学GEOG479, インフルエンザ伝播モデル  with Jeon-Young & Wataru

空間モデリングとシミュレーション

今回の健康地理学をテーマとした二人のHarukana Show出演は、Jeon-Youngさんが2019年秋学期に講師を務めた「Spatial Modeling & Simulation(空間モデリングとシミュレーション)」という授業をWataruさんが履修したことに由来します。その授業について触れながら、健康地理学のより具体的な分析方法や活用例に迫っていきましょう。

Agent-Based Model (エージェントベースモデル)

この授業(Spatial Modeling & Simulation:GEOG479)は、Jeon-Youngさんが得意とするAgent-Based Model という新しい分析手法が学べる特別講座でした。Agent-Based Model (エージェントベースモデル)とは、ヒトやモノをエージェントとみなし、その動きを概念モデル化、ルールを定め、コンピュータ上でシミュレーションすることで、地理空間事象を理解しようとする新しいアプローチです。授業では、その理論を学ぶと共に、感染症の伝搬、災害時の避難行動、健康食へのアクセシビリティ等を例にモデル開発も行いました。

インフルエンザ感染の時空間伝搬モデル

Wataruさんは、その授業のグループ期末課題として、イリノイ大学を対象地としたインフルエンザ感染の時空間伝搬モデルを作成し、予防接種の効果を確かめるシミュレーションを行いました。この動機は、イリノイ大学ではMcKinley Health Centerという保健センターが、毎年インフルエンザの予防接種を学生や教職員に無償で提供しているのですが、実際の接種率を問い合わせたところ約20%と低めでした。接種率の向上が、感染者数の削減にいかほど効果があるのか調べる事で、予防接種の大切さを伝えようというものです。寮に住む学生をサンプルに、朝授業に出かけ、授業をそれぞれの学部の建物で受講し、夕方帰る。感染者と出会うと何%の確率で感染する等のルールを定めていき、シミュレーションを走らせました。

仮説、行動ルール、データとモデルの信頼性

Agent-Based Modelで鍵となる要素は、いかに単純かつそれらしい仮定や行動ルールを定められるか、また結果の信頼性をどう担保するかという点です。Wataruさんのケースで言えば、感染症流行モデルにはSEIRモデルというのがよく使われます。これはSusceptible(無免疫者)、Exposed(感染者)、Infected(発症者)、Recovered(回復者)の頭文字で、この4段階で人間の状態を説明します。また、居住地(寮)や通学先(通う大学の建物)の人数比を、大学の公式情報に合わせたり、予防接種の発症予防率や年間平均インフルエンザ感染者数をCDC (Centers for Disease Control and Prevention : アメリカ疾病予防管理センター)から入手し、モデルに組み込んだり、シミュレーション結果と照らし合わせたり、シミュレーションを多回数行うことで統計的に信頼できる結果にしたりといったことを行いました。

 コメント、Agent Based Modelのエージェントとは by Ryuta

Agentは「ひと」とは限らない

Jeon-YoungさんとWataruさんのお話を伺っていると、地理情報科学のAgent Based Modelにおいては、ある問題のモデルつくりに影響を及ぼす要素を広く、Agentととらえ、それが、「ひと」であったり、「もの」であったり、「交通機関」であったりします。社会学や文化人類学を学んできたRyutaやMugikoは、Agentというと「ひと」と考えるので、その点が新鮮でした。

想定しえないことへの「畏れ」

Agent Based Modelでは、常に変容する社会、環境のある問題を、情報として抽出し地図上に可視化し、その後の可能性を予測する。今回のお話は健康地理学でしたが、たとえば、災害などのこれまで生じた現象の膨大なデータを収集・緻密に分析し、これから起きうる事態に対してシミュレーションモデルを作ることで、バーチャルだけどリアルな視点から多様な対策を考え備えることができます。それでも、現実には、想定外の事態が発生する。想定しえないものへの「畏れ」が、科学にも暮らしにも大事なのだろうなあ、と思いました。Mugi

■ソウル・フラワー・ユニオン「満月の夕」■佐々木恵梨「ふゆびより」■忌野清志郎「満月の夜

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