No.562-2, Dec.31, 2021, 米国、イリノイ州のCOVID-19対策の変遷、危機管理からリスク管理へ with Tatsuya

COVID-19感染拡大の現状と対策、2021年のふりかえり with tatsuya

本日は、UIUCの原子力工学部助教のTatsuyaさんをゲストに迎え、IL州、Champaign CountyにおいてのCOVID-19感染拡大の現状と対策、UIUCの春学期の始まりの方針、イリノイ州の対策の変遷について、お話を伺いました。12月28日(CST)に収録後、12月30日にUIUC JPN COVID-19 Town Hallが動画配信のかたちで開催されました(動画は1月6日まで閲覧可能。スライド資料はこちら)。次回のTHは、1月6日(木)18:45-19:30です。TH Twitterにも最新の情報が随意、掲載されていますので、ご確認ください。

Part1, オミクロン株の急速な感染拡大、社会的規制から医薬的対策へ

Part2, 危機管理からリスク管理、資源の戦略的分配、個人の選択

新規陽性者数・陽性率ともに過去最高水準

C-U地区とUIUCキャンパスでは、新規陽性者数・陽性率共に過去最高水準にあります。Champaign郡内の1日あたり新規陽性者数は直近2週間で3倍程度に増大、UIUCの陽性率も秋学期終了後の2週間で3~5倍に急増しました(※UIUCキャンパスでは、秋学期終了に伴って検査実施数が減少しているため陽性率を比較)。いずれのデータも、日付を横軸にとってプロットするとほぼ垂直な増加挙動を示し、欧州や米国他州でも観測されている典型的な“Omicron Signature”を示しています。この点から、C-U地区内ではOmicron株が新規感染の支配株(以前の支配株であったDelta株より高い割合を占める状況)であると推定されます。

UIUC JPN COVID-19 Town Hall_Dec.30, 2021, 資料 p.7, Data Source: IDPHD

入院患者数の増加率は、比較的低い水準

一方、C-U地区が属するIDPH Region 6やChampaign郡内の入院患者数の増加率は、新規陽性者の増加率と比較すると緩やかになっています。例えば、Champaign郡内の日ごと入院患者数の直近2週間の増加率は大きく見積もっても20~40%程度で、同時期の新規陽性者数の増加率(200%超)と比較し低い水準にあります。

但し、クリスマス休暇や年末年始に伴い、検査・病院利用データに一部欠損や遅れが生じており、データ解釈が一筋縄でない状況です。C-U地区やUIUCの状況を正しく理解するには、Holidaysシーズンによる疫学的データへの影響が取り除かれるまで(1月7~8日頃が一つの目安)待つ必要があります。また、C-U地区の疫学的データを根拠にOmicron株の重症化率の高低を議論するのは、データ点が不足していることから現状では時期尚早と思われます。

UIUCの春学期へ向けた追加感染対策

UIUCでは、Shield検査データの急速な悪化に伴い、2022年春学期に向けた追加感染対策を発表しました。大学院生・教職員に対する新たなガイドラインの要約:(1) ワクチン接種状況に拘わらず、キャンパスでの対面活動を再開する際に、UIUCのShield検査を2度(3日以上の間隔で)受けることを要求;(2) 学生・教職員がこの要求事項を満たす時間を確保するため、春学期の第一週 (1/18-21) の講義は全面オンラインで行う;(3) Pfizer/Modernaの接種完了から6カ月経過,J&Jの接種完了から2カ月経過後の18歳以上全員に対し、大学としてBooster接種を義務付けることを検討中。

但し、年明け以降のC-U地区・UIUCの感染状況次第で、今後大きな変更点が加えられる可能性があります。最新情報をUIUCウェブサイトで頻繁に確認してください。

UIUC JPN COVID-19 Town Hall_Dec.30, 2021, 資料 p.11, CUPHDより

米国・IL州のCOVID-19対策の変遷をどう理解するか

リスク分析・マネジメント学の立場から米国内のCOVID-19対策の推移を解釈すると、パンデミックの長期化に伴い、根本的なアプローチが「危機管理(Crisis management)」から「リスク管理(Risk management)」へ変化している最中と考えられます。

「危機管理」は、突発した緊急事態に対し、現象の理解や利用可能な対策・緩和手段が存在しない状況で、人命や社会活動の安全を守るために実施される“緊急避難的な”アプローチを指向します。例えば、 2020年上旬の状況を思い返すと、COVID-19の治療方法や重症化リスクに関する科学的知見が確立されておらず、治療薬やワクチンも存在していませんでした。社会・個人レベルのリスク評価が困難で、かつ利用可能な対策・緩和手段も存在しない状況下で、取り返しのつかない重大影響を回避するための“予防原則”の立場から、自宅滞在命令など強力な社会的感染対策を実施していた時期が「危機管理」の段階に相当します。

一方、2020年夏以降、COVID-19を巡る科学的知見・経験が蓄積されるにつれ、COVID-19対策が徐々に「リスク管理」にシフトされて来ました。例えば、治療方法の確立、各種感染対策の効果に関する理解の深化、有効性の高いCOVID-19ワクチンと抗ウイルス薬の実用化、重症化リスクに関する知見の蓄積に伴い、強力な感染対策を社会全体に対して実施するのではなく、特に感染・重症化リスクが高いグループに集中して対策資源を投入するというアプローチに移行しつつあります。-Tatsuya

Confirmed Champaign County COVID-19 Cases, 21-12-31, 9.59AM, CUPHD

正しくおそれることが可能となった?

CUPHDのサイトに掲載されているChampaign CountyのCOVID-19陽性者数は、トークを収録した12月28日は2985人でしたが、12月31日には4,445人、2022年1月1日には5,160人となりました。この数字の何倍もの人がPCR検査を受けていることになります。これだけ多くの人がCOVID-19感染と直面していても、強い社会的規制は行われず、ホリデーシーズンに多くの人が移動し、会いたかった人にようやく会い、行きたかった場所へゆくことができる。ワクチンが開発され接種が普及したこの1年のあいだに、アメリカでは、対策として何がどう変わり、それが人々の生活や考えにどう影響しているのだろうか。今回のトークでTatsuyaさんに伺いたかったことです。

Tatsuyaさんに、危機管理(crisis management)とリスク管理(risk management)という枠組みから説明してもらい、複雑な問題を考えやすくなりました。最悪の事態を想定した集団への強い緊急避難的なアプローチをとらざるえない時期と比べると、現在は、科学的知見と経験が蓄積され個別のリスクへの対処が可能になり、政府も個人も「正しく具体的におそれる」ことができるようになったのかなと思います。

non-pharmaceutical対策から、pharmaceutical(薬学的)対策へ

Tatsuyaさんのお話のなかで、COVID-19をめぐる対策も、自宅滞在命令などによる社会的規制(non-pharmaceutical:非薬学的)対策から、pharmaceutical(薬学的)対策に重点を移しているという説明もありました。イリノイ州政府は、PCR検査もワクチン接種も誰でも無料で受けることができる体制と環境を整え接種を強く推進するけれど、最終的な判断は個人にゆだねています。社会的規制はできるだけ緩和し、状況に応じて屋内でのマスク着用やワクチン接種証明提示を求める。こうした感染症対策が機能するには、行政からの情報が個人に届くコミュニケーションの仕組みや、個々人の多様な選択の結果を受けとめる医療体制や保険などのシステムも重要になるかと思います。来週のTatsuyaさんとのトークの後半では、こうした問題を含め、コロナ対策をとおしてみる政策決定のプロセスや、政府と個人の関係などについてもふれていきます。-Mugi

Confirmed Champaign County COVID-19 Cases, 22-01-01, 7.09AM, CUPHD

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