イリノイ州のデータセンター誘致、巨大センターへの懸念
イリノイ州では、2019年よりデータセンターを誘致するための税制優遇措置をとってきました(20ILCS 605/605-1025)。ところがAIの普及により大規模(Hyperscale) Data Centerが急速に拡大*するなか、様々な問題が生じてきました(HS No. 803-2)。州内の自治体によっては規制を求める動きが顕著になっています。
*州の報告書によると、2019年6月28日から2025年12月31日の間に、データセンタープログラムに35の申請があり、34が承認されたと記されています。Illinois Department of Commerce & Economic Opportunity(DCEO), JB Pritzker, Governor, Data Center Investment Program 2025 Annual Report*, p.7
州議会によるPower Actの頓挫、州知事による優遇措置受付の停止
2026年2月にはイリノイ州議会に、データセンターに対する包括的な規制法案であるPower Act (SB4016, HB5513)が提出されましたが、春の定例議会では制定に至りませんでした。Pritzker 知事が、2026年6月5日に知事権限によって、7月1日よりデータセンターの税制優遇措置の新たな受付を停止すると声明を発表しました。
今週のHSのPart3では、この声明文、”Gov. Pritzker Pauses New Data Center Tax Incentives ” (Press Releases, Office of Governor JB Pritzker, June 5, 2026)から、現時点で知事が何を問題にし、どのような対策を講ずるべきと考えているのかを話題にしました。
Part3, IL州知事の声明文からデータセンター問題を考える
消費者の暮らしを守るためのデータセンターに対するガードレールを整備
Power Actの法案が専門的かつ相当な分量でありその内容を把握するのは容易ではありません。これに対して知事の声明は簡潔に内容をまとめています。冒頭で次のような内容を述べています。
全米でAIやデータセンターの開発が急速に進む中で、イリノイ州では光熱費の高騰や供給の不安定化、地域の水資源の影響など住民の負担増といった代償を強いられることはあってはならない。経済成長と技術革新の取り組みを継続しつつ、データセンターの成長が地域社会と消費者の双方に利益をもたらすように、明確な規制枠組(clear guardrails)を確立する必要がある。
そのために、次の秋の臨時議会(veto session)で包括的な改革を推進できるように、議員、消費者団体、労働組合、環境団体、公益事業体、地方自治体、業界リーダーに呼びかけていきたい、として7項目の内容を述べています。
データセンターについてなすべき7項目 by Governor JB Pritzker
1. データセンターは公正な負担をすべき
Data Centers Should Pay Their Fair Share:データセンターが消費する莫大な電力・送電インフラの整備コストが、一般家庭の電気料金に上乗せされるリスクが強い。データセンター向けの電気料金、配電負荷の負担、水道料金を設定して、コストの低減と環境保護を図るために、データセンターに対して確立された基準、要件を設定する。
2.州の税制優遇措置を一時停止すべき
State Tax Incentives Should Be Paused:データセンターの開発需要が急速に高まっている中、こうした優遇措置が消費者のコストや環境への影響を顧みない開発を助長しているかどうかを把握するため優遇措置を一時停止する必要がある。
3. 州の働く家庭や企業を最優先したエネルギーの安定供給
Energy Reliability Must Prioritize Illinois Working Families and Businesses:イリノイ州民に安定した電力供給を確保するために、電力網に負担がかかった場合は、データセンターは一時的に稼働を停止すべきである。電力会社に対して、データセンターが自ら供給するクリーンエネルギーの量に応じて「中断可能な電力サービス」を割り当てるよう指示すべきである。
4.データセンターは新たなクリーンエネルギーの開発を支援すべき
Data Centers Should Support the Development of New Clean Energy:データセンターは、イリノイ州民がその消費分の費用を負担することのないよう、データセンターが独自の新たなクリーンエネルギー資源を発電するか、その費用を負担すべきである。
5.イリノイ州は水資源を保護しなければならない
Illinois Must Protect Its Water Resources:データセンターは膨大な量の水を消費する可能性がある。データセンターに対し、水使用量および水質への影響を把握・規制・開示する包括的な水利用許可の取得、水使用が持続可能であり、水資源を枯渇させないよう義務付ける。水の再利用の奨励も含まれる。州として水の使用状況を監視・管理し、計画を立てることで、私たちの最も貴重な資源の一つを保護する必要がある。
6. イリノイ州は強力な大気汚染防止対策を維持しなければならない
Illinois Must Maintain Strong Clean Air Protections:データセンターの発電による大気汚染は全米で公衆衛生上の大きな負担(2030年までに$20billion)をもたらす可能性がある。イリノイ州では、全ての州民がきれいな空気を吸い、健康的な環境を享受できるよう、データセンターの発電機に対する厳格な大気質基準を維持し、環境正義が求められる地域における許可申請では、累積的な影響を考慮する必要がある。
7. 地域社会には透明性と実質的な発言権が保障されるべき
Communities Deserve Transparency and a Meaningful Voice:イリノイ州民には、自分たちの地域社会で何が起きているかを知る権利があり、データセンターが透明性のあるプロセスを運用し、また地域住民が懸念や意見を表明する機会を設ける必要がある。データセンターと地方自治体の秘密保持契約を禁止し、データセンターに対して、エネルギーや水使用量を定期的に報告させ、許可申請を公示し、立地する地域社会との利益還元協定の締結を義務付ける。
以上が7項目の要約ですが、最後にとても大事なことを述べています。
データセンターの既存の優遇措置契約は有効
“Existing incentive agreements under the Data Center Investment Program, including those entered into with DCEO before July 1, 2026, will be honored.” :2026年7月1日以前にDCEOと締結された「データセンター投資プログラム」のインセンティブ(優遇措置等の)契約は有効です。

方向性は明確に、しかし細部に踏み込まず調整しやすく
Power Actが春の定例議会で決議(制定)に至らなかった背景には、異なる立場の人々の意見や、複雑な利害調整が困難だったと想像されます。これに対して州知事の声明は、簡潔で分かりやすい一方、各規制項目の細部にはあえて踏み込まず、これから多様なステークホルダーが検討を進める上で調整(合意形成)をしやすいように「含み」を持たせているという印象をMugikoは受けます。
例えば、第4項目にデータセンターがクリーンエネルギーを自前で調達するという提案がなされています。しかし、ここでのクリーンエネルギーとは何かについては、それ以上の詳細は述べられていません(Power Act案では、再生可能エネルギーや原子力発電などに言及しています)。
州民の健全な暮らしと環境保全を確保したデータセンターの持続可能な開発
このように州知事の声明はこれまでのデータセンター誘致策を否定するものではありません。既存の契約(2026年7月1日以前にDCEOと結ばれた優遇措置契約)は維持(有効)とした上で、中長期的に持続可能な開発を進めるために、一度立ち止まって、健全な暮らしと環境を守るルールを早急に作る必要があるという、知事の意思表明となっています。また、さまざまな立場の関係者、組織団体がこれらを検討し、実施可能な提案をして秋に審議できるように呼びかけています。
データセンターをめぐる地域社会のそれぞれの動き
州知事のこの声明の内容を参照枠として、それぞれの地域社会(communities)において、例えば、Champaign Countyでは、実際に何が問題にされているのかを見てゆくと、データセンターを巡り、その地域の特性が見えてきたり、どのような立場の人々、組織、団体が何にこだわり、地方においてもどのような衝突、葛藤があり調整が行われているのかが、とらえやすくなるかもしれません。次回のHSで、Champaign Countyの郡議会での議論や12ヶ月モラトリアムの決議以降、タスクフォースが何を検討しているかなどを話題にしていきたいと思います。-Mugi

