LEFT BANK BOOKS
St. Louis Public LibraryのChristineから、St. LousでZineを扱っている書店をいくつか教えてもらいました。彼女が紙に最初に名前を書いてくれたのが、LEFT BANK BOOKSです。街路樹と小ぎれいなレストランが並ぶブロックの一角に、その本屋さんはありました。ショーウィンドウに並ぶ書籍からは、現在のアメリカの大きな政治の流れに抗する姿勢が垣間見えます。
書店前にWilliam Burroughsの像
ドアの手前には、William Burroughs(1914-1997)の像があり、驚きました。バロウズといえば、1950年代のビート・ジェネレーションを代表するアメリカの小説家、『裸のランチ』( The Naked Lunch, 1959)など、日本語にも多くの作品が翻訳されています。
HoppyとBurroughsの写真
私は、ロンドンでBurroughsと親交のあった人物を2人、取材しています。一人は、John “Hoppy” Hopkins(1937-2015)です。彼は、1960年代のロンドンのアンダーグラウンドな活動に深く関わりました。写真家でもあったHoppyは、自分が撮影したBurroughsの写真パネルを、晩年、自分の部屋に飾っていました。Hoppy宅を訪問するたびに、私は、Burroughsの写真を目にしていました。
ロンドンの60年代とビートジェネレーション
Hoppyが亡くなった後に、インタビューをGrassroots Media Zine No.3にまとめる時に、Hoppyの親友であり作家のBarry Miles(1943-)に原稿を読んでもらいました。HoppyとMilesは、1965年にLovebooksという出版社を始め、Burroughsの詩が入った『DARAZT』(1965)という美しいデザインの冊子を出版しています。Milesは、Burroughsと親交が深く、後に彼の伝記を書いています。Hoppyにとっても、Milesにとっても、Burroughsは、Allen Ginsbergとともに、ロンドンの60年代の「アンダーグラウンド」に欠かせない存在でした。
(LondonからZineレポート(7):GMZ#3がつなぐ縁, Sept.11-19, 2016)
1階は明るくアートな、地下には古本や事務所も
GMZシリーズが入った手提げ袋を持って、Burroughsの像に背中を押されるような気分で(ひょっとしたらこの書店でGMZを扱ってもらえるかもと期待して)、LEFT BANK BOOKSに入りました。1階は、すっきり明るくアートな雰囲気のお店ですが、Zineコーナーは見当たりません。地下1階には古本などの本棚とテーブル、そして事務所が2つあり、どちらもドアが開いていました。その1つは、少し雑然としていて、そこに、この書店の長い歳月がつまっているような気配がしました。
London のHousmans Bookshopと似ている
そう感じたのは、LEFT BANK BOOKS が、私がロンドンへゆく度に訪ねるHousmans Bookshop と雰囲気が似ていたからです。Housmansも、1階では、夜には著者のトークイベントなどが行われ、地下は、アートやZine コーナー(GMZも)、そして古本の本棚の奥にミィーティングルームがあり、長年、書店に関わる活動家たちが出入りしていました(Blog Sept.9, 2016)。
地下の事務所の前をうろうろしていると、遅いランチをとっている様子の女性が中から、「どうしましたか?」と声をかけてくれました。それが、Kris でした。
一人の客の言葉への細やかな対応
「Zineのコーナーはありますか」と尋ねると、「特にZineを集めた棚はないですけど、色々な棚に、バラバラとはあります。ちょっと待ってくださいね」と言って、しばらくして、フェミニズム関連のいくつかの冊子や詩のシリーズを持ってきてテーブルに並べてくれました。一人の客の言葉に、丁寧に対応してくれる書店だと思いました。
私は、St. Louis Public Libraryでしたように自己紹介をして、GMZ No.3をKrisに見せました。「店の前にBurroughsの像がありますが、このお店と何か関係しているのですか。実は、このGMZ No.3では、Hoppyという人物とLondonの60年代のアンダーグラウンドカルチャーの活動について扱っているのですが、そこにもBurroughsが登場します」
BurroughsはSt. Louis生まれ
「St. LouisにゆかりのあるWilliamsという名前の作家がいて、そのうちの1人が、St. Louis 生まれのBurroughsです。実は、彼はこのお店にも来たことがあるんですよ。その時の資料があるはずです」。Krisはまたさっといなくなって、7分ほどしてから資料を抱えて戻ってきました。それからいろいろな話をしてくれました。
1981年、BurroughsがLEFT BANK BOOKSへ
「1981年にはLEFT BANK BOOKSが主催してBurroughsと John Giorno(1936-)を囲んだイベントも行なっています。これが、Burroughsがこの書店で販売・サイン会をしている時の写真です」。Krisは、そのイベントのフライヤーや新聞記事、そして何枚かの貴重な写真をテーブルに並べて、説明をしてくれました。
地域の活動拠点、
Krisの話では、LEFT BANK BOOKSは、1969年に設立され(詳しくはこちら)、現在の場所に移った時に、彼女は最初のスタッフとして雇われました。それから40年、現在は、この書店の共同所有者でもあります。「ゲイ」パレードへの参加が警察の介入で容易でなかった思い出話や、現在の移民の家族や子供たちの強制退去の問題などにもふれました。Krisの熱い語りと人への細やかな対応を見て、40年以上の間、Krisは、St.Louisでいろいろな社会問題に関わり続けてきたこと、そしてLEFT BANK BOOKSが、地域の多様な活動の拠点となってこの街の人々と一緒に走り続けてきたことが伝わってきました。
独立系書店としての経営と地域とのつながり
社会と関わりながら、独立系書店として半世紀近く経営を続けるためには、信念や情熱だけでなく、本の読み手、作り手、売り手をこの書店につなぐ工夫や、地域の人々にとってこの場所が大切だと思える活動や、それを支える人を育てる仕組みがあるのではないかと思います。今回は、そこまでお話を伺えませんでしたが、これから学びたいことのヒントをたくさんもらいました。
GMZシリーズは、1セットをKrisへ、もう1セットは誰か関心のある方へお渡しくださいとお願いしました。St. Louisにまた来たいと思います。
*LEFT BANK BOOKSの通りを挟んで反対側のメキシコ料理のお店の前に、もう一人のWilliams像(Tennessee Williams:1911-1983)がありました。3人目のウィリアムは、William Gass(1924-2017)でしょうか(”10 authors on the St. Louis Walk of Fame — and a few who should be“March26, 2018, St. Louis Post-Dispatch)。