Blog:St. Louis からZineレポート(1) クリエイティブに模索する公共図書館,Zine Collection & Recording Room, Oct.22, 2018

St.Louisへ

今回の St.Louis訪問の目的は、引っ越し前のRyutaさんと会い、そしてRyutaさんが2年前にHarukana Showで紹介されたSt.Louis Public Library(Central Library)のZine Collectionを見学することです。*HS Podcast No.294, Nov.4, 2016

St.Louisの市街地, Oct.21, 2018

色々な要素が隣り合わせの街

St.Louisはミズーリ州東部のミシシッピ川とミズーリ川の合流点にあり、商業地として栄え、1904年には万国博覧会が開催されました(HS Podcast No.340)。現在の人口は30万人あまり、見るからにジェントリフィケーションが進んだ閑静な住宅地と、建物の手入れがあまりされていない地域とが、車で通り抜けるだけでも対照的でした。10月21日と22日の2日間の滞在中に、自動車事故後の人だかりを2件、人が道端に倒れている光景を2回、目にしました。いろいろな要素が隣り合わせにある都市という印象を受けました。

歴史的建造物を改修、モダンな図書館へ

St. Louis Public Library (Central Library)はダウンタウンの中心地にあり、歴史的建造物(1912年建設)を改修し、2012年にオープンしたモダンな図書館です。(詳しくはこちら

建物自体がミュージアム@St.Louis Public Library, Oct.22, 2018

館内は、天井も壁も窓のステンドグラスも繊細に重すぎず美しく、程よく光が入ります。1階受付はモダンな造りですが、別のドアから入ると古い博物館に来たような印象を受けます。

図書館正面受付&Olive Street側@Oct.22, 2018

いざ、Zine Collectionへ。貸し出しもOK

10月21日は日曜日、午後から図書館は開いていましたが、Zineコーナーがある2階はお休み。翌日、月曜日の午前中、図書館を再訪し、まっすぐZine Collectionのコーナーへゆきました。明るい大きな部屋の、背丈の低い本棚に4列・4段分に、Zineが1冊ずつが見やすくディスプレーされ、「貸し出しもできます」と表示されています。

「貸し出しできます」@Zine Collection! St. Louis Public Library, Oct.22, 2018

三度めの正直で、Zine Collectionの担当者と会う

隣の部屋にいるライブラリアンにZine Collectionの担当者について尋ねると、「彼女が来るのは、今日は正午から」とのこと。1時間半後、もう一度図書館を訪れ、三度めの正直で、Zine Collectionの担当者のChristineに会うことができました。

自己紹介、Zineを通してグッと近づく

Zineに関して話を伺う時には、自分の職業と身分とともに、①日本から来たこと、②grassroots mediaに関心を持っていること、③自分でもZineを作っていることを伝えます。そして、Grassroots Media Zineを見せると、初対面なのに互いに、「グッと近づいて」話し始める。そんな体験を、Urbana-ChampaignでもChicagoでもLondonでもしてきました。Christineに、「どのようにしてZine Collectionを始めたのか」尋ねました。

Zine Collection@St. Louis Public Library(Central),Oct.22, 2018

Portlandで刺激を受ける、Small Press Expoも開催

「Portlandへ行きZine関連のプロジェクトを見てこれはいいなと思い、始めました。地域のZineが300ほど集まりました。一週間前には、ここで大きなイベントをしましたが(St Louis Small Press Expo, Oct.13, 2018)、そうした機会に図書館へZineの寄贈を受けたりします。アメリカ国内で、地域のZineを収集している他の公共図書館はいくつもありますが、Seattle Public Libraryのアーカイブには、3万点以上のZineがあります」*Seattle Public Libraryへ多数のZineが移管された経緯についてはZAPP(Zine Archive & Publishing Project, NPO)websiteへ。

The St. Louis Small Press Expo (SPEx) @SLPL,Oct.13, 2018, websiteより

作り手は10~30歳代、特定の層には限定されない

「St. Louis Public Libraryでは、1つ1つのZineを登録し、貸し出しもしていますが、さらに細かく分類はしてはいません。コミック系のZineもたくさんあります。作り手は10歳代から30歳代が多いですが、特定の層に限定されているわけでもありません」

Tateishiさんの『DIY TRIP SEATTLE & PORTLAND』の続き

Christineの話は、私の中では、HSのTateishiさんの最初のZine『DIY TRIP SEATTLE & PORTLAND:手作り印刷物とDIY精神をめぐる旅~シアトル・ポートランド編』(2011)と重なってゆきました。(HS Podcast No.22-2, Aug.26,2011)

HS Podcast No.22-2, Aug.26, 2011& Naofumi Tateishi『DIY TRIP, SEATTLE & PORTLAND』

これは、「Do It Yourselfの考え方や態度に感化された著者が、ふとしたきっかけでZineづくりをサポートするポートランドのNPOの存在を知り、現地に行って実際に見学し、そしてDIY精神に溢れるアメリカ西海岸の空気を味わおうとして行った旅の記録をまとめた初のZine」(著者による説明@HOWE*GTR)です。

つながりの連鎖

PortlandとSeattleでの体験を、Tateishiさんは『DIR TRIP』にまとめ、ChristineもまたPortlandの何かに触発され、公共図書館にZine Collection設置や関連イベントを企画してきました。そして、HSでTateishiさんからZine作りやDIYをテーマにした話から刺激を受けて、私もGrassroots Media Zine#1(2013)を創刊しました。

Grassroots Media Zine, No.2, No.3, No.1 (GMZ site)

そのGMZシリーズを携えて、Ryutaさんに教えてもらったSt.Louis Public LibraryのZine Collectionを見学し、担当者のChristineにGMZシリーズを手渡しました。世界のいろいろな場所でのZine やLittle Pressの展開には、無数のつながりが連鎖しているのだろうと思います。

公共図書館にレコーディングルーム!

St. Louis Public Libraryで、もう一つ印象的だったのが、Recording Roomです。音楽制作・編集やトークを録音してPodcastを制作できます(Creative Experience, slpl)。こんな設備があれば、自分の家にパソコンや機材がなくても本格的な曲作りができるし、また、どこかのコミュニティラジオ局とコネクトして離れた場所からトーク番組を制作できるなあ、とを想像しました。本格的なスタジオ内にも入りたかったのですが、午前も午後も、使用中でした。この部屋は、若い人にはニーズがありそうです。

そういえば、Ryutaさんが2年前のHSでこう話していました。「図書館も、利用者のニーズに応えながら、情報収集にとどまらず、物作り(たとえばファブラボ:Fab lab)や映像制作による情報発信、アートとしての自己表現、などもできる場所へと少しずつ変わってきています」(HS Podcast No.296, Nov.18, 2016)

Podcast制作テーブルが4つ、 本格的な録音・編集スタジオ@reading room, St.Louis Public Library, Oct.22, 2018

利用者のニーズに応えながら図書館も変化

U-Cに戻ってからChristineにメールを書きました。「St. Louisの歴史あるモダンな図書館を見て、公共図書館という場所が、いかにして地域と住民とつながるかを模索して、多目的スペースとして変化していると感じます」

Christineからは「世界は急速に変化しています。ユーザーのニーズに応じた道を図書館も常に模索しています」という返信が届きました。

U-Cでも、これまでIndependent Media Centerのような非商業的な活動の中で培われた発想やスキルを、今、公共図書館が、「図書館」という場所の生き残りをかけて積極的に吸収、応用しているという印象を受けます。それが住民や関連組織にとってどのような意味を持つのか、Harukana Showでもテーマとして扱っていきたいと思います。

St.Louis Public Library, Central Library, Oct.22, 2018

 

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