大学の図書館にZine Collection!
Blog: ロンドンからZine レポート(1)の続きです。Stuart Hall LibraryのNickさんが、London College of Communication(University of the Arts of London)のLibraryにもZine Collection (facebook)があり、2000を越える数のZineがあると教えてくれました。彼が、「この人に連絡するといいよ、ただ、新学期が始ったばかりで、とても忙しい時期だから、すぐには返信はこないかもしれないけれど」と言って紹介してくれたのが、LCCの図書館のAcademic Support LibrarianのLeila Kassirさんです。大学の図書館に本格的なZine Collectionがあるなんて驚きです。
“The collection is an off-shoot of the Printing Historical Collection and currently contains nearly 2000 zines and fanzines. The collection contains zines primarily created within the 21st century although the oldest
zine in the collection dates back to the late 1970s. The zines are varied in topic, style and format. They cover art, music, photography, politics, personal stories and are A4 and A5, colour and black and white; handmade and printed. The collection continues to be added to.” LCC Collections & Archivesより
2015 年9月15日、Leilaさんにメールを送りました。Zine Collectionの閲覧希望とともに、Grassroots Media Zineを寄贈したいと記しました。1時間ほどして、返信が届きました。「どうぞ、図書館にお越し下さい。10時から6時まで利用できます。ただ、このZine Collectionは膨大な数です。閲覧用に、いくつかのフォルダーをランダム出しておきましょうか。何時頃いらっしゃいますか」。
なぜ、今Zineなのか
Leilaさんからの返信を読み、大学の図書館に本格的のZine Collectionがあること、それ自体に興味をもちました。「なぜ、今、Zineなのか」。Leilaさんに訪問日時を知らせ、質問を5点、記しました。
①Zine Collectionの趣旨:大学の図書館になぜZineアーカイブをつくろうと考えたのか。②収集方法:市販の書籍のような流通ルートにはのらない個人出版のZineについて、どうやって情報を集め入手するのか。③分類:この膨大な数のZineを図書館としてどのように分類しているのか。④大学の教育での利用:授業ではどのようにZine Collectionを使っているのか。⑤zine作りの近年の傾向:最近のZine作りの傾向、流行りがあるのだろうか。
2015年9月16日(水)地下鉄(Bakerloo Line, Northern Line)のElephant & Castle駅から徒歩5分ほどです(場所はこちら)。9月のロンドンの雨は冷たく、初めての場所を訪ね新しい人に会うのは緊張し、心身がこわばります。受付でLeilaさんへ連絡をしてもらいます(ロビーからさらに内部へは、関係者しか入れません)。
Leilaさんは、Zineが入った箱を抱えて現われました。図書館前のソファーで、半時間ほど、私が書いた質問にたいして、いろいろなZineを見せながら、一気に話をしてくれました。現在のイギリス(ロンドン)のZine事情だけでなく、紙という物をとおした表現、Zineがもつ心身に呼びかける力のようなものを、改めて考えるお話でした。日本語で要点を記します。(文責Mugiko)
大学の図書館でなぜZine Collectionを?—「印刷」関連の教育
LLCは、かつてはLondon School of Printingと呼ばれる学校でした。印刷に関しては長い教育の蓄積があります。今でも、デザインとメディア、印刷について重点的に学ぶことができます。ライブラリーにも印刷をめぐる500年ほどの歴史をたどる貴重な資料を集めたアーカイブがあります。しかし、一般の人々が発信する印刷物の収集はあまり行われていませんでした。そこで、2009年からZineの収集を始めました。
なぜ、今、Zineなのですか—紙への愛着、手作り、手渡しへのこだわり
たしかに、パソコンとインターネットが普及し、紙媒体の印刷物は消滅するだろう、と言われたこともあります。ところが、紙媒体への関心は薄くなるどころか、あえて紙にこだわる人は少なくありません。Zine作りも、自分の手で作る面白さ、手触り、紙だから伝わる温もり、親密さ(intimacy)があります。手で作り、手渡しする。DIY への関心が、現在のZine作りの流れにはあります。
紙とハサミとノリとコピー、でも作れる
若い人たちでも、パソコンを使わず、あるいはプリントアウトしても、それをわざわざハサミで切って、写真などとともに紙にはりつけ、コピーする、そんなZineを作る人もいます。70年代、80年代には、他に選択肢がなかったからそうしましたが、現在でも、その手作り感にこだわり、楽しんでいる。そうした人がネットを利用していないわけではありません。自分のサイトをもち、SNSを使い、しかし、それとは別にZineも作る。発行部数は、100、200といったものから20より少ない場合もあります。いずれによせ、儲けることを目的にしているわけではありません。
Zineをどこで手に入れる?—Zine Cultureを支える現代のFAIRなど
かつては、インデペンデントなレコードショップやブックショップがZineを扱っていました。Leilaさんが10歳代の頃は、パンクのライブにゆくと会場で£1とかでFunzineが売っていました。しかし、80年代、90年代と、そうしたお店が次々閉店し、数が少なくなりました。そこでZineをとおして交流する場を多くもたない現代のZineの作り手が、自分たちでZine Fairを企画、実施してゆきました。たとえば、現在でしたら、DIY CULTURESなどイベントが毎年開催されています。
どんな分類を?—とくにジャンル分けをせずに
この図書館のZine Collectionも、そうしたFairへ行って集めたり、あるいはオンラインでも入手します。現在でも、いくつかの本屋さんでもZineを扱っていますし、またこうしたZineを持ち込み、寄贈してくれることもあります。この図書館にあるのは70年代後半から現在のものまで、種類はさまざまです。Zineの基本情報を入力して検索できるデーターベースを作っていますが、たくさんのZineをとくに分類はしていません。
Zineの傾向—Identity Politics、 perzine、など
政治関連であっても、より大きな政治というよりも、identity politicsに関するものが多いです。フェミニズム、ジェンダー、セクシュアリティに関するもの、queerzine、gayzineなどです。また、perzine(パージン)もたくさんあります。personal zineを縮めてそう呼びます。よりパーソナルなzineです。自分の好きな食べ物や料理などから環境、ライフスタイルに関して、精神的な病気、摂食障害についてであったり、perzineと呼ばれるものの範囲はさまざまです。
Zine作り教育—ルール、定型がなく、発想力、創作性を刺激する
LCCでは、商業デザインを学ぶ1年生が受講するzine projectでは、200人あまりの学生たちが課題としてZineを作ります。Zine制作についても講義を受けますが、しかし、Zineとはそもそもが定型がない。授業のなかで学んできたデザインのルールといったものを、Zineでは気にしない、飛び越えていたりします。なので学生たちは、たくさんのzineを手とって見ても、それらが手本になるわけではなく、自分がzineを作るときには、自分で考えなければならない。何のために、どんな素材で、どのように作るのか。それは刺激的な経験です。
ロンドンのZineをめぐる旅、このあと、ROUGH TRADEとbookartbookshop を訪問します。続きは、ロンドンからのZine レポート(3)(4)へ