No.424-2, May3, 2019,「1本の長い映画を作り続けている気がする」With Shinich Ise(後半)

『やさしくなあに』(Home, Sweet Home)の海外上映

先週(HS Podcast No.423)に続き、伊勢真一監督のインタビュー後半をお届けします。

伊勢真一演出作品『やさしくなあに〜奈緒ちゃんと家族の35年〜』(英語タイトル、Home, Sweet Home)2017年は、昨年から今年にかけて、韓国、台湾、アメリカ、フィンランド、ベルギー、イギリス、ルーマニア、と世界各地の映画祭に招待上映され、いくつもの賞を受けています(詳しくはいせFilm海外上映レポートへ)。

映画『やさしくなあに』海外上映、英語版フライヤー、いせフィル「海外上映レポート」より

Part1, True/False Film Fest という名前に込めた意味(8m17s)

ミズーリ州Columbiaで開催されたTrue/False Film Fest(2019年2月28日〜3月3日)でもHome, Sweet Homeが招待上映されました。先週のHarukana Showの後、Naokoさんからこんなお便りをいただきました。「質問です。True/Fales Film Festを、伊勢さんは『ウソかマコトか映画祭』と言っていましたが、主催者は、映画祭の名前にどんな思いをこめたのだろう?」

「真実」と「虚構/創作」の境目を考え直す

True/False Film Festの”True/False”に込められた「意味」についてですが、先週の放送でもちょっと触れたときに言ったように、まず”True or False”には成句で「真か偽か」という意味があります。(なので、試験の「正誤問題」は”true or false question”と呼んだりします。) それをベースに、ドキュメンタリー映画を通して「真実」とは何か、「真実」と「虚構/創作」との境目とは何かを考え直そう、という意味を持たせているのではないかと思います。by Ryuta(”T/F website, Mission

Shinichi Ise Interview(後半)

Ise-san、Columbiaはマイナス15度@T:Film Fest 2019

気がついたら35年撮り続けていた

2月にIse さんからHarukana Showにお手紙をいただきました(HS Podcast No.414)。

私の場合は、しっかりした信念があって35年間撮り続けたわけではなく、ただ、のんびり屋だから仕事が遅いだけなんだけど。気がついたら、35年撮り続けていた、ということです。でも、何事も早いことが大事にされる現代社会にとって、遅いことだって大切なんだぞ、と言いたい気持ちもある。ただただ慌ただしく、今の今のことばかりにとらわれアクセクせず、10年後、100年後、1000年後の視点で今を見たら、ちょっと違って今が見えてくるんじゃないか……ってね。ドキュメンタリーにそういう視点も必要なんじゃないかなあ。by Ise

それでも、Iseさんはどうしてそんなに長く撮り続けることができるのだろう、どの時点、どんなふうに作品が生まれるのだろう。インタビューの後半は、Mugikoのそんな問いから始まります。

Part2,「撮り始める理由はあっても、撮り止める理由が見当たらない」(21m28s)

Iseさんの語りには、さりげなく、印象的な言葉がたくさんあります。PodcastでIseさんの息づかいとともにをゆっくりお聞きください。

長い旅をずっとしていて、駅に停車して、1つ1つの作品ができていく、それで1本の長い映画を作っているんだな、と思うことがある。エンドマークがつかないまま、次の作品とつなげて見ていったら、劇的にいろんなことが変わっていくわけじゃなくて、繰り返し繰り返し車輪が線路の継ぎ目をまたいでいくように、カタンカタンカタンカタンっていいながら、走り続けていく」

「ドキュメンタリー映画は、窓というより鏡だと思う」by Ise

約300の客席はほぼ満席@T:F Film Fest, Columbia, MO, March1, 2019, by Ise Film

海外上映での手応え

Iseさんは、世界各地での上映を通して、海外の方が「反応が良い」と感じています。同じ言葉や文化の中で上映される時よりも、映像そのものをしっかり観てくれる、ドキュメンタリー映画の「空気感」を受け止め感じてくれる。それはなぜなんだろう、と考えながらIseさんは、海外「巡業」を続けています。

また、『やさしくなあに』を、目が見えない人や耳が聞こえない人のためのバリアフリー版も作成し、これまでと異なるオーディエンスをとおして、自分のドキュメンタリー映画をとらえなおしてみたい、とも考えています。

最新作『えんとこの歌』

最新作『えんとこの歌』(2019)は、映画『えんとこ』(1999年、「脳性マヒで寝たきり生活を強いられながら介助者たちの力を借りて生きる学生時代の友人、遠藤滋の日々を3年間にわたって追ったドキュメンタリー」)の続編です(最新情報は、Ise Filmへ)。2017年の神奈川県相模原市で起きた障がい者殺人事件の後、Iseさんは、再び遠藤さんのもとを訪ねます。遠藤さんの障がいは進行し、話すことが困難になっていました。しかし、短歌を詠み、心の叫びを言葉に託します(『えんとこの歌』のフライヤーより)。

発声されえぬ言葉としての遠藤さんの歌、この映画とそこで詠まれる歌が、海外ではどのように受け取られるのか。Iseさんは、『えんとこの歌』の英語版の作成に取り組んでいます。

Ise-san、Terui-san, Naoko-san @ Columbia, March 2019, photo by Morioka-san

Part3,  コメント by Ryuta &  Mugi (10m48s)

ドキュメンタリー映画への身構え

Iseさんのトークを聞いて、『やさしくなあに』の日本と海外での反応の違いについて、Ryutaさんは、「日本ではドキュメンタリー映画を、身構えて観てしまうのではないかな」と話しています。

映像と身近に向き合える環境

例えば、イリノイ大学では、AsiaLENSという取り組みがあり、アジアのドキュメンタリーフィルムを1年間に6本上映し、地域の人々も無料で見ることができます。身近にドキュメンタリー映画に触れたり、毎年の映画祭で映画と接する機会が多い場所では、映画のテーマや事前に得た情報にとらわれすぎず、観客一人ひとりが映像と向き合えるような気がします。また、言語が異なる観客には、Iseさんのいう「空気感」が言葉の意味に遮られずに伝わりやすいのかもしれません。

Iseさんの映画の海外「巡業」がこれからも続いて、日本との反応の違いについて、Harukana Showで続きのお話を伺えたらいいなあ、と思います。(まとめ by Mugi)

■The Band「 Shall Be Released」■友部正人「遠来」

雨上がり@Champaign, May2, 2019

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