下駄をめぐる物語〜Bloomingtonのアンティークショーから, August22, 2014

アメリカの蚤の市の楽しみ

先週末は、Tomさんに車を運転してもらってBloomingtonの3rd Sunday Marketにいってきました。400をこす出店者が集まるアンティークショーです。家具から日用品まで、なんでもありの古物、ガラクタ市という感じです。アメリカの蚤の市で、1920年代、30年代に日本から輸出された陶磁器やビスクドール、占領期に輸出されMade in Occupied Japanと記されたものを見つけると、いろいろな時代が伝わってくるような気がします。

薄く繊細なカップ、裏に漢字で「日本」と印@Champaign, August2014

薄く繊細なカップ、裏に漢字で「日本」と印@Champaign, August2014

この日は、思いもよらないものを持ち帰ることになりました。

「下駄」です。

日用雑貨のブースに、ぽつんと、赤い鼻緒の下駄がありました。これを見て、Tomさんのお父さんのお話を思い出しました。Tomさんのお父さんは、第二次世界大戦時、アメリカの軍隊にいて、終戦後しばらく東京に駐在していました。お会いしたときに、日本人の私を見て当時の様子を次々と話されました。東京駅のたくさんの「下駄の音」、皇居の周囲のお堀の「鯉」などです。

アンティークショーの下駄をみて、Tomさんに、あれが、お父さんが話していた「日本の下駄だよ」と言って、その場を行き過ぎました。数分後、その売り場の女性が、下駄を抱えて、私たちを追いかけてきて、下駄を差し出すのです。「いや〜、下駄は今はいらないよ〜」、と心のなかで思ったのですが、彼女は、この下駄を、売るのではなく、くれるというのです。下駄を手渡すと、さっと売り場を戻ってゆきました。

私には、この下駄が、いつ頃のどんな種類のものなのか分かりません。そこで、日本にいる母にメールで写真を送りました。

突然の下駄@3rd Sunday Market, Bloomington, August17, 2014

突然の下駄@3rd Sunday Market, Bloomington, August17, 2014

今朝、こんな返信がきました。

1950年代のハイカラ調、別珍の鼻緒

「写真は、塗の女下駄です。原則は漆でよそ行きですが、これは戦後、鼻緒の模様からすると1950年代ハイカラ調なので漆でなく合成塗料の漆もどきかもしれません。余所行きがはける社会層が拡大した大衆用だと思います。鼻緒は、別珍(べっちん、これも大衆化したビロード)だと思います。下駄は新品ではなくおそらくちびて(すり減って)いるのではないかと思いますが、鼻緒は色あわせした新しいのにすげかえてあるように思う。

写真をみたとたんに、なんかお出かけのうきうきした気持ちが思い浮かびました。カラコロカラコロです。それから「ちびた」とか「すげかえる」とか、下駄に関する忘れていた単語がごく自然にとびだすのもうれしかった。モノを見てはじめて蘇る記憶があります。写真をみせてくれてありがとう。」

時間と場所をこえた物語の連鎖

Tomさんのお父さんは、日本人の私をみて70年近く前の「東京駅の下駄」の音を思い出し、アンティークショーの売り場の女性は、私が下駄を眺めて話す様子を見て何かを思い、わざわざ追いかけて私に下駄を手渡し、その下駄の写真を見て母が、1950年代の子供だった頃の下駄を思い出す。時間と場所を超えた不思議な物語のような気がします。この話が、また誰かの記憶にふれることがあるのかなあ。Mugi

 

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