No.552, Oct.22, 2021, 「紙縁」、和紙と作品をとおして場所と人にかかわるwith Miki-san

夏の終わりから一気に秋のど真ん中

日本各地、この数日で、突然に涼しくなりました。Kyotoも、突然にもう11月に突入したような感じです。今日の番組の最初に、Harukana ShowのメンバーのTomさんに、Champaignの様子を聞いてみました(Part1)。

「U-C、突然に秋がきて、紅葉する間もなく落葉、PACAの職場でも風通しのために窓や出入り口を開けておくと、落ち葉が入り込んできて、1日中掃除しないといけない」と話していました。そして、通りには、家々の前に、たくさんのでっかいパンプキン(Tomさんは、懸命に、「かぼちゃ」と日本語表現)が並んでいるそうです。COVID-19の陽性者数も今週は減少、ハロウィンをはじめ、秋のイベントを楽しむことができますように。

今日のライブ配信を聞いて、Niigata在住のYoshiさんが、5年前にU-Cに滞在されていた時の写真を送ってくださいました。いろいろな時間と場所がつながって嬉しいです。ありがとうございます。Mugi

Part1, U-Cも突然の秋。ハロウィンの季節 with Tom

本日のゲストトークは、和紙アーティストの竹山美紀さんのお話の後半です(Part2&Part3)。Mikiさんが、青山学院大学在学中に東京藝術大学を受験し、芸術の道を選ばれたプロセスについては、先週、お話を伺いました(No.551-1)。そこで、油絵を専攻されたMikiさんが、和紙の世界にどのように魅了され、和紙アーティストの道を歩き始めるのか。Mikiさんは、日本のKochi、RyutaさんはShizuoka、ファシリテーターのWataruさんはU-Cからの出演です。日本時間の10月8日に収録しました。

今週も、Mikiさんに文章とたくさんの写真を寄せていただきました。ありがとうございます。

Part3, 和紙の魅力、産地で研修、「水・原料・技術」、AIR、土地と人とアートの交流

Part4, 高知に移住、木造築100年元薬屋でショップ&アトリエ、町民とのつながり

油絵から和紙へとつながる

東京藝大油画科に入ってからは油絵をしばらく継続して描きます。とても楽しいのですが、でも、何か広がって深まっていけない。そこで油絵以外の素材を模索するようになり、思い出したのが小さな頃のあの母と作った和紙アートのことでした。久しぶりにちぎり絵をしてみるととても楽しく、また優しい手触りにとても癒されました。一枚作ってみると、次はこうしてみたいという気持ちが湧いてきました。そして今度は抽象にしてみたり、とそれがどんどんと続いていくようになりました。

和紙の産地、岐阜県美濃市での研修

しばらく作っていると和紙の背景が気になってくるようになります。和紙を触っていると産地の風景なようなものだったり職人さんの姿勢だったりとがぼんやり感じられるけれど、自分の今まで生きてきた世界にはそれが無く、グレーゾーンになってはっきりと理解することができません。そこで産地に足を運んで紙づくりを知ることにしました。職人さんの目線になった時にその答えを知ることができると感じて、岐阜県美濃市の一ヶ月の手すき研修に参加します。

真冬の白い山景色の中、参加した手すき研修。東京の暮らしとは全く違いました。景色も香りも水も。でもそれはとても心地良いことでした。身体中からその取り込まれる空気、空気から感じるすべてを喜んでいるような感覚。紙づくりを学んだことでとても印象的だったのは、大変なチリ取りの作業も、紙漉きの作業も、目の前に広がる景色がとても美しいことでした。

本美濃紙の「絹の輝き」

第一回でお話した地道なチリ取り作業では、小さなチリを見つけようと目を凝らすと視界いっぱいが繊維になって、それが澄んだ水の中でものすごく上品に輝いています。本美濃紙は「絹の輝き」と称されるほど繊維が上品にキラキラと輝いて見えます。それに工房にはいつも綺麗な水のちょろちょろと流れる音がして、紙漉きの時もそれは一緒でちゃっぽん、ちゃっぽんと音がします。一帯に拡がる山の香りはもちろん、楮からはちょっと美味しそうな香りもします。

五感からえられる情報、過酷な作業の中から生まれる感覚とことば

そんなふうに体力勝負の本当に大変な作業において五感に入ってくる情報はとても美しいことを知り、どうして過酷な作業の中から生まれる和紙の中には職人さんの感動だったり楽しくて前を向く強さのような姿勢が感じられるのかわかった気がしました。ちなみに和紙職人さんや提灯職人さんなどは和紙に対する感覚はもっと鋭く、紙一枚を見ればどの工程をどんな気持ちで取り組んだかがわかるそうです。

「一に水、ニに原料、三に技術」

いろいろな地域の和紙職人さんからは心に残る言葉もたくさん伺いました。60年以上紙を漉き、1日に1000枚漉くこともある職人さんが本当に良いと思う紙が作れたのは10数枚だとおっしゃっていました。「明けない夜はないよ」というような今まで聞いたことあるような言葉も、小学校もほとんど通わせてもらえず朝日の登る前から夜暗くなるまでほとんど休みなく親の手伝いで紙づくりをしなければ生活ができなかったという過去の話を含めて今があるという事だったり。高知県の尾崎製紙所さんは「一に水、ニに原料、三に技術」という言葉を先代から教わったと伝えてくれました。その三にあたる技術ですら到達の難しいものなのですから、いかに原料や水が大切かがわかります。

和紙に救われる

そのようにして和紙を素材として作品をつくり始めてから自然や人間の営みの世界と繋がり、ますます惹かれて、世界が広がっていきました。油絵から和紙にシフトしたというよりは、次、またその次と繋がっていった先に今があるように感じています。そういう意味で、私は和紙に救われたのだと思っています。

AIR、土地と人とアートの交流

AIR(Artist-In-Residence)とは一定期間アーティストがある地域に滞在して作品制作を行うことで、地域住民とアーティストが文化的な交流を行うことを目的としています。私が参加させていただいたのは茨城県大子町のAIRです。大子町(だいごまち)は、手すき研修に行った岐阜県美濃市でつくられる本美濃紙の原料である大子那須楮が特産品です。本美濃紙はいくつもの厳しい規定によってその歴史ある品質を維持しています。その中には高品質である茨城県大子町産の楮を使用しなければならないと表記があります。その大子町で行うAIRに和紙を扱う作家を招集したいという事でお声がけをいただきました。

DAIR(Daigo Artist In Residence)の施設は一階がアトリエとキッチン、トイレやお風呂になっていて、2階が3部屋ほどの作家用の小部屋になっています。滞在中は他の作家さんがいらっしゃることもあり、それぞれのプロジェクトを行なっていました。

私が滞在中に行った町の人たちとの交流というと、まずは楮の生産者さんにお伺いして楮剥ぎに参加させていただきました。その時は本美濃紙の職人さんもいらしていて、休憩時間には農家さんと職人さんの意見交換の場にもなっていました。他にも地域の作家さんとコラボをして作品を作ったり、ワークショップを開催したり、日々のことで言うとご近所さんから昔の様子の話を世間話のように伺ったりとそういう時間も貴重な交流でした。最後には大子町の特産品でもある林檎の林檎園さんの130年の素敵な古民家で個展を開かせていただきました。

*U40:《竹山 美紀》 #0017 「アーティスト・イン・レジデンス制度にて和紙の産地を巡りながら作品制作を続けている竹山 美紀さんに一問一答しました」2019年10月18 日

和紙がつなぐ縁、高知への移住

仁淀川と「紙の町」

私の暮らしている越知町の隣町であるいの町は高知県では“紙の町”と呼ばれていて、昔から紙づくりが特に盛んな町でした。越知町やいの町などを通る仁淀川は最近有名になってきていますが、仁淀ブルーと呼ばれる青く綺麗な色が特徴の一級河川です。高低差があるため比較的川の流れが早く、不純物が洗い流されている状態でそのため透明度も高いです。今現在、現存している最古の和紙は1300年前のものと言われていて、そのように和紙が長期で形状を保つのには使用する水に不純物がないことも大きな理由の一つです。

越知町商店街の元薬屋をアトリエに活用

越知町商店街のちょうど真ん中あたりにあるかつて薬屋さんだった建物で、現在はお店やアトリエとして活用させていただいています。建物は最近まで使用していた方がいらっしゃったりとしていたため保存状態が良く、修繕をせずに使えていることが本当に有り難い点です。他にもイベントに参加して販売やワークショップを行ったりと、茨城県に滞在していたときの高知版のようというか延長線上の生活を過ごしています。この一年半、新型コロナウィルスの影響としてはワークショップが難しくなったことがあったりと少なからず受けていることもあるのですが、もう割り切って準備期間として今できることに取り組んできました。

町民とのつながり

正直なところ田舎(という言葉でいいのかわかりませんが)は人付き合いが大変だよという言葉も何人から聞いていました。ですが、実際今の町に暮らしてみると距離感ということを私が考えなくてもいい居心地のいい関係が続いています。挨拶はもちろん高知ならではのお野菜を持ってきてくださったりと関わりはあるのですが、どこか思いのほかさっぱりとしています。けれども見守っている温かさがあって、居てほしいと思ってくれているからこそなのかなと思う瞬間もあったりして、それはとても貴重で幸せなことだと実感しています。

Mikiさんの作品と色、和紙との対話を形に

 作品をつくるときはどんな和紙であってもその和紙と向き合っていくことでまずは制作が始まります。正確にはどんな部分に和紙に惹かれたかなど自分が和紙の魅力だと思う部分を拾い上げて、それをシンプルに引き立つような画面にしたり、折ったりシワをつけたりと作業を加えることで実験のように和紙の新たな魅力を探っていきながらつくっていきます。それはモチーフがある時も一緒です。風景だったり、ものだったり、自分がどうしてそれに惹かれたのかを考えてそれを作品に落とし込めていきます。

各地の和紙博物館

実は都道府県の中で和紙工房がないのは3県ほどだそうです。全国にある和紙産地にはやはり紙の歴史を知れる施設が結構あるみたいです。また、Ryutaさんのお話では、アメリカでもホビー的に和紙が漉ける場所があったりもするそうですね。国を超えて伝わる魅力があるのかもしれません。いつか海外の和紙好きな方にもお会いしてみたいです。

これからの取り組み

まず第一には作品をたくさん作って、より追求していきたいです。定住した土地でアトリエを持ち、作品制作に没頭できる日々に心から幸せを感じています。その日々に感謝してさらに突き詰めていきたいです。

それと和紙の未来には、職人の継承と同じくらい和紙を活かすための知識や技術、使用者が続いていく事も欠かせません。実際に、職人さんからは「紙漉きをしない時期に雑貨を作ったりするけれど紙をものにする際のアイディアや技術が少ない」と、作家さんからは「和紙は好きだけど使い方や購入先がわからない」と、お店にいらっしゃるお客様からは「和紙が好きだけど暮らしにどう取り込んでいいのかわからない」とお伺いもします。そんな両想いの部分を繋ぎ合わせていきたいです。最近では、県内の同世代のイラストレーターさんに和紙でできることや職人さんをご紹介しています。和紙を使うことで県や町またメディアなどから後押ししていただけるチャンスが増えたりと作家側に嬉しい事もあります。使い手という視点から和紙のためにできることに取り組んでいき、和紙を想うたくさんの人達とその一員となって和紙文化を繋げていきたいです。-Miki

今井友樹『明日をへぐる』:土佐和紙をめぐるドキュメンタリー映画

Mikiさんを囲んでのトーク、ひきこまれました。和紙をとおして産地と人とのつながりでき、Mikiさんの作品と活動を通して、人と和紙のつながりもできていく。そんな手触り、温もりが残るお話しでした。Mikiさんから土佐和紙のお話を伺ってから、Mugikoは、京都シネマで、今井友樹(ともき)監督、ドキュメンタリー映画『明日をへぐる』を観てきました(10月28日まで上映予定)。「土佐和紙の原料となる楮(こうぞ)をめぐる山里の人々の暮らしを記録したドキュメンタリー」(映画.com)。Mikiさんのトークの風景が映像として目の前に広がって、Mikiさんから土佐和紙のご縁を少しいただいたような気分でした、とMikiさんに書き送ったら、こんな素敵なメッセージが届きました。

「紙縁」

和紙に惹かれて出逢った縁を「紙縁(しえん)」というといくつかの地域の職人さんからお伺いしたことがあります。Mugikoさんにも紙縁が広がっていったのですね。Miki

Urbana-ChampaignのWRFUから放送、配信されるHarukana Showも、U-Cといろいろな土地や人やことばの縁をグローカルにつないでいけたらいいなあ、とワクワクしました。Mugi

 

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