No.563-2, Jan.7, 2022, COVID-19をめぐるUIUC春学期の方針、IL州の危機管理の政策決定プロセス with Tatsuya

Omicron株による感染拡大のなかでのUIUC春学期の方針

Champaign Countyにおいても、Omiron株による前例をみない感染拡大が続いています。こうした状況の中でイリノイ大学は春学期をどのように開始するのか。UIUCの原子力工学部助教のTatsuyaさんとのトーク後半です(前半:No562-2)。また、危機管理におけるイリノイ州政府や大学の政策決定のプロセスについても話題にしています。ChampaignからTatsuyaさん、日本のShizuokaからRyutaさん、KyotoからMugikoが2021年12月28日、オンライン上に集まり、トークを収録しました。

Tatsuyaさんには、2022年1月9日現在の最新情報を加えて、Podcastの原稿を執筆していただきました。重ねて感謝いたします。-Mugi

Part2, 政府の政策・対策決定のプロセス、政府と個人の関係

Part3, UIUC春学期方針(2021年末時点)

Test Positivity IPHD Updated :22-01-07

UIUC新学期(2022年春学期)に向けたCOVID-19対策

秋学期からの対策継続

UIUCのCOVID-19対策は、先学期までと同様、「ワクチン接種、屋内でのマスク着用、待ち時間の短い独自のPCR検査資源の充実、感染者の早期隔離、大学施設への入館者管理」を基本的要素として実施されます。具体的には、以下の対策が先学期から継続されます:

  • 学生、教職員全員に対するワクチン接種の義務付け
  • 医学的、宗教的理由などによりワクチン接種を免除された関係者に対する定期的な(2日に1回)全数PCR検査
  • ワクチン接種状況/検査結果と大学施設の入館許可を紐づけ。
  • 屋内施設でのマスク着用義務。
  • 各建物の入り口で、Wellness Support Associates (WSAs) による携帯アプリを用いた入館可否の確認とマスク着用確認。
  • 検査陽性者、濃厚接触者向けの隔離施設の確保

大学院生・職員向けのガイドライン

また、C-U地区内でのOmicron株による感染者急増を受け、以下の追加対策が実施されることがUIUC本部から発表されています(※注:以下の内容は、大学院生・教職員向けガイドラインの要約です。学部生向けガイドラインは一部内容が異なりますので、こちらのリンクより確認してください。)

  • 1月3日~15日の間に、最低1回、UIUCキャンパスのShield検査を受け陰性の結果を受け取ることを要求。
  • 1月18日~21日は、予定通り、全ての講義(学部・大学院共に)をオンラインで実施。現時点では、1月24日以降、対面授業へ移行予定。
  • 全関係者に対し、N95 mask, KN95 mask または Level 3 surgical maskの着用を強く推奨。Omicron株の高い感染力を受けた措置。
  • 全学生・教職員にBooster接種を要求。対象は、Pfizer/Modernaの2回目接種から5か月以上、J&Jの接種から2か月以上経過した18歳以上全員。新学期開始から一定期間、Booster接種実施のための猶予期間が設けられる見通しだが、対象者は学期開始前に接種を完了することを強く推奨。
  • 2020年7月にShield検査プログラムが立ち上げられて以来、検査結果の通知や大学の建物への入館可否確認などに使用されていたSafer Illinois Appは1月3日で停止され、これらの機能はIllinois Appに移行されました。Illinois Appに関する詳細情報はこちらのリンクを参照。

なお、1月11日(火)12:00-13:00 CSTにCOVID-19 Briefing Series: Spring 2022 Returnの開催が予定されており、春学期に向けたCOVID-19対策ガイドラインや注意点などが詳しく紹介されると思います。詳細はこちらのリンクを参照。-Tatsuya

Confirmed Champaign County COVID-19 Cases, 22-01-09,6.69AM, CUPHD

リスク分析学の立場から見たCOVID-19対策を巡る意思決定

「リスク管理」と「リスク評価」「リスクコミュニケーション」との分担と連携

先週の放送(Podcast No.562-2)で、COVID-19対策は“危機管理(Crisis Management)”から“リスク管理(Risk Management)”のフェーズに移行しつつある点に触れました。適時適切なリスク管理を実施するには、「リスク管理(Risk Management)」が「リスク評価(Risk Assessment)」「リスクコミュニケーション(Risk Communication)」と密接に連携し合うことが必要条件となります。

リスク評価を行う専門家の不文律

特に重要なのは、“リスク評価を行う専門家”と“リスク管理のための意思決定を行なう専門家”との間で互いの役割分担が明確に分担され、両者の間で効果的な“リスクコミュニケーション”が行なわれる点です。リスク分析学の世界には「“リスク評価を行なう専門家”は評価結果を客観的に提示する事に注力し、“リスク管理のための意思決定”に口出しをするべきでない」という不文律があります。この役割分担の明確化は、意思決定プロセスの透明性を高めるだけでなく、意思決定者による(意図的、無意識双方の)バイアスを低減し、より合理的な方針の決定にも貢献します。

IL州のCOVID-19をめぐる意思決定の経緯

米国内やIL州内でのCOVID-19対策を巡る重要な意思決定を振り返ると、多くの場面でこの“不文律”に従う形で意思決定が行なわれた経緯があります。

例えば、2020年3~6月にIL州知事がStay-at-Home Orderの実施や延長を決定した際には、事前に州内の複数の大学の専門家に感染リスクとロックダウンによる経済的リスクの評価を依頼し、これらの複数のリスク評価の結果を踏まえ、州政府の専門家10数名で構成される合議体での議論を経て、自宅滞在命令を巡る意思決定が行なわれました(HS No.475-1, May 1, 2020)。

COVID-19の社会的感染対策、社会全体の便益と損害への救済策

COVID-19の社会的感染対策は、様々な属性の住民に対して多岐にわたる影響を異なる程度及ぼし得るため、全員が納得できる最適解を導くことは不可能です。“リスク評価”と“リスク管理”を明確に分担し、多様な分析結果と視点・価値観を意思決定のプロセスで考慮することによって、社会全体としての便益を増加させつつ、対策によって著しい損害を被る可能性がある人々に対する救済策を組み合わせるなど、より細やかで思いやりのある解決策を見出すことが可能になります。-Tatsuya

UIUC JPN COVID-19 TOWN HALL資料, Jan.9, 2022、Tatsuyaさん作成

政策決定の結果への評価、現状への柔軟、かつ迅速な対応

リスク評価の専門家は、リスク管理の決定から距離をおいているからこそ、政策が実施された結果に対して、客観的な分析、評価も可能になる。政策決定者は、政策の結果に対する評価も受けて、現状に対して柔軟に対応し迅速に軌道修正していく。それが、Tatsuyaさんがいうリスク管理と評価とコミュニケーションの連携のあり方なのかなと思います。(日本は、政策決定のプロセスも、連携も、見えにくい)-Mugi

政府と個人の関係、多様な個人への思いやりのある対策

たとえ同じ科学的データに基づいていたとしても、州政府によっても、あるいは個別の組織(大学)によっても、対策は大きく異なります。COVID-19をめぐる政策決定のプロセスには、アメリカの社会・政治の多様性とともに、政府と個人との関係もかいま見られます。州政府や自治体の政策にどう利用するかは、最終的には個人の判断に委ねられています。ワクチン接種もPCR検査を受ける機会を提供していたとしても、感染者数や死者数も世界最多を更新し続けています。「社会全体への便益」をはかりつつ、厳しい現状に対する「より細やかな思いやりのある」対策がどこまで行われているのか。同じ問題が、アメリカに限らず、どの社会においても厳しく問われています。

プロセスの共有とアーカイブ化

現在進行形の事態を共有し、今後に向けて考えるうえでも、Ryutaさんがトークの中でふれられた政策決定のプロセスのacountability(説明責任)とともに、情報の開示とアーカイブ化の問題は重要です。そこで、定量的データだけでなく、現状についての質的な情報もどのように残していくことができるのか。これは、昨年のGISシリーズNo.8(No.557, No.558-1) でもふれました。すぐに消えてしまう今を大切にしながら、2022年のHarukana Showも、ラジオ番組とPodcastの制作を続けていきたいと思います。-Mugi

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