No. 659, Nov. 10, 2023, 時間と場所をこえて記録をつなぐプロジェクト第5話ー伊勢志摩の調査:Plathさんと MoritaさんとKoharaさん

U-CはIndian Summer(小春日和)

今週のU-Cは、最高気温が25℃となるIndian Summer(小春日和)もあれば、週末は、最低気温がマイナス2℃まで下がっています。一方、11月に入っても夏日が観測されていた日本各地でも、ようやく秋らしく冷え込んできました。Mugikの家の近所では、カラスが柿を食べていました。渋くないのかなあ。

今週のゲストは、森田三郎さん(甲南大学名誉教授、文化人類学)。MoritaさんのHSへの出演は、12年ぶりです。David W Plathさん(1930-2022)との思い出について語っていただきました(11月6日録音)。番組としての収録は、11月9日(木)、RyutaさんはTokyoから、MugikoはKyotoから参加しました。Part1では、Plathさんが尽力された甲南大学とUIUCの交換留学(YIJ: Year in Japan)の始まりについてMugikoが説明し、Part2 & 3で Moritaさんのお話(Plathさんの出会いと伊勢志摩の海女についての共同調査について)をお届けしました。

Part1,YIJの始まり- David Plathさんと増田光吉さん

Plathさんは、イリノイ大学の名誉教授、2022年11月4日に亡くなられました。日本を含む、アジア研究、特に1990年代以降は、映像人類学を広く展開されました。また、1970年代には、イリノイ大学と甲南大学と協定を結び留学プログラムを開始し(YIJ)、イリノイ大学だけでなく米国の他の大学も含むネットワークを広げていきました。このプログラムを共同で立ち上げ推進してきたのが、甲南大学では増田光吉先生(1924-1988)でした。

Mugikoが2010年にイリノイ大学の在外研究の機会をえたのも、当時はこのプログラムの教員派遣枠があったからです。その後、2011年4月にHSが始まり、第20回には、PlathさんにWRFUスタジオに招き、第2次世界大戦後、日本に関心を持ったきっかけや日本留学プログラムを開始した経緯を伺いました。Plathさんが出演された時に、日本からオンラインで参加してくださったのが、TsujinoさんとMoritaさんです。Moritaさんも、1992年から93年にかけて、イリノイ大学に客員研究員として在籍され、農民文化についての調査をされています。

Part2, Plathさんとの出会い、Plathさんと伊勢志摩の調査 with Morita

Part3, 海女の生活誌、”The Reefs of Rivalry” with Morita

Moritaさんは、専門は文化人類学、甲南大学に1981年に着任してすぐに、YIJと関連して、ピッツバーグ大学のKeith Brown教授(1933-)のもとで、在外研究をしました。Brownさんは、日本の水沢で長年調査をされ、Plathさんはそのドキュメンタリーを制作しています(『Can’t Go Native?』2011)。この映像は、UIUCで9月に開催されたMCAAのPlathさんを偲ぶシンポジウムでも上映されました。Moritaさんのお話の内容を、下記にMugikoがまとめました。

Keith BrownさんをとおしてPlathさんと出会う

Moritaさんはこのアメリカ滞在中に、Brownさんをとおして学会でPlathさんと初めて会いました。Plathさんが、1980年代に日本の伊勢志摩のフィールドワークをされるときに、甲南大学の増田光吉さんも協力し、Plathさんの通訳を森田さんに依頼されました。

Plathさんのフィールドワークのキーパーソン、香原志勢さん

Plathさんが、伊勢志摩の調査を始めたのは、香原志勢さん(1928-2014)からの紹介でした。HSでは、「時間と場所をこえて記録をつなぐプロジェクト」1-4話をお届けしました。Plathさんが、長野県、松本市での現地調査で行った資料と柳沢健作「白馬三山」を地元の朝日美術館に寄贈するお話をしてきました。Plathさんが1950年代末の調査において松本市でお世話になったのが、当時、信州大学医学部の助教授だった香原志勢さん(1928-2014)でした。Koharaさんは自然人類学、人類生物学を専門とし、農民の運動能の調査をしてきました。1970年に立教大学に移り、そこで三重県の伊勢志摩出身の学生の家族からの協力を得られたことから、Koharaさんは伊勢志摩での海女の生態学的研究(ex.皮下脂肪研究など)を展開していきました。香原志勢著『人類生物学入門』(1975, 中公新書)にも海女調査についても詳しく記されています。

Plathさんと、Moritaさんと個性的な院生たち

Plathさんは、このKoharaさんからの紹介を受けて、1980年代に伊勢志摩での調査を始めました。Moritaさんは、通訳を引き受けただけでなく、甲南大学で文化人類学を学ぶ大学院生たちとともに調査にも参加しました。PlathさんとMoritaさんと院生たちは、調査をとおしてえた情報を「KJ法」によって共有していきました。Plathさんにとっても個性的な大学院生たちのとの調査は、楽しい思い出になりました。

まずは全体を俯瞰する

MoritaさんがPlathさんの運転で最初に調査地を訪問したときに、まずは、志摩半島と海が見渡せる高台にゆきました。Plathさんは、内海(真珠養殖)、外海(海女たちの漁業)の位置・関係など全体を把握し、そこからフィールドワークを始めるとよいとMoritaさんに指南されました。また、Plathさんが車の運転スピードを少々出しすぎ、パトカーが追いかけてきたことがありました。この時は、Plathさんは、流暢な日本語は使わず、「日本語よくわかりません」と押し通し、難を逃れたそうです。Moritaさんが、Plathさんの「お茶目な」一面を話しています。

海女の社会、女性たちの経済力と発言力、オープンマインド

海女の社会の調査は、MoritaさんにとってもPlathさんにとっても印象的でした。海女たちの社会は、Plathさんがそれまで日本で調査をしてきた農山村や、あるいは都市部のサラリーマンの暮らしとは大きく異なっていました。海女たちは地域内外にたいして「開放的」で、外から来る人たちにも海女さんたちは、心を開き、Plathさんたちを受け入れてくれました。鮑などの貝を獲る海の仕事は、天候などの状況にも左右され博打的なところもありました。

経済力を握る女性たちの発言力は強く、Moritaさんのお話にたびたび名前が出てくるベテラン海女のキヨさんも、Plathさんにあけすけにツッコミを入れていました。Plathさんがイリノイ大学を退職される時にはMoritaさんは渡米し、パーティに参加しました。キヨさんからPlathさんへのビデオメッセージを持参し、たいへん喜ばれたそうです。-まとめby Mugi

PlathさんとJacquieさんとの共著論文「ライバルたちの魚礁」

伊勢志摩での調査には、イリノイ大学のJacquetta Hill先生(文化人類学)も参加されました。PlathさんとJaquieさんとの共著論文を書かれています。David W. Plath and Jacquetta Hill, “The Reefs of Rivalry: Expertness and Competition among Japanese Shellfish Divers” Ethnology, Jul. 1987, Vol. 26, No. 3 (Jul. 1987), pp. 151-163

David Plathさんの日本調査のキーパーソン、香原志勢さん

イリノイ出身のPlathさんにとって、山間部の信州での調査も、伊勢志摩の海岸部での調査も強い印象を残したと思います。高度成長期にさしかかり急速に変化する日本社会を、欧米社会と重ね合わせながらも、それぞれのローカルな社会、文化を生活誌やライフストリーからとらえていく。そんなPlathさんの調査研究を可能にしたのは、さまざまな「現場」とそこに生きる人々をつなぐKoharaさんのようなキーパーソンが大きな役割をはたしたのだろうと思います。

Koharaさんは、立教大学時代にゼミ生をとおして知り合った伊勢志摩のM医師一家のことを、『人類生物学入門』でも感謝を込めて記しています(pp.135-136)。PlathさんやMoritaさんたちも伊勢志摩でM氏にはお世話になりました。M氏から、第2次世界大戦中の中国にいた体験を聞いたというお話を、Moritaさんが今回のトークでも紹介されています。伊勢志摩の調査から脱線しますが、Koharaさんもまた、「戦争」を、戦地とは別の場所で経験しています。1951年、東京大学の大学院生時代にKoharaさんは、福岡県の小倉にあった米軍墓地登録部隊で、朝鮮戦争で亡くなり日本へ移送された米軍関係者の遺体の個体識別を行う作業をしていたことがあります。香原志勢著『石となった死』(弘文堂、1989)に詳しく記されています。

Plathさんの日本研究を可能にしつないだ人たちや現場で出会った人々の記憶には、さまざまなかたちの「戦争」があったのではないかと思います。-Mugi

■Bombay Bicycle Club 「Diving」■秋山公良「海が見える街(魔女の宅急便より)」■Daichi Yamamoto 「maybe

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