Champaign市の野宿禁止条例案の背景
先週のHS (No. 768-2)で、2025年12月2日のChampaign市議会に多くの住民が集まり意見を述べ、「野宿禁止条例案」(Cuncil Bill No. 2025-196)が否決されたとお伝えしました。直接参加の政治、そして情報公開のかたちとしても興味深いという点を話題にしました。こうした野宿禁止条例については、連邦政府やイリノイ州、そして他の自治体おいても議論されています。この点を今週のHSでは補足説明しています。
Part3, 2024年6月連邦最高裁「Grants Pass判決」、2025年7月大統領令
Grants Pass v. Johnson 判決ー2024年6月
近年の野宿禁止条例が各地で作られる引き金となったのが、連邦最高裁判所による「グランツパス判決」は2024年6月28日です。オレゴン州Grants Pass市における「公共の場所でのキャンプ(野宿)を禁止する条例は、合衆国憲法修正第8条(残酷で異常な刑罰の禁止)に違反しない」という判断を出しました*。この判決は全米の都市や州のホームレス対策に影響を与えることになりました。
*・Alison Durkee「米最高裁、ホームレスの『野外での寝泊まり禁止』を容認」Forbes Japan, 2024, 07.01 17:30. ・橋本圭子「【判例研究】City of Grants Pass v. Johnson, 603 U. S. ____,(2024) : オレゴン州グランツパス市の公有地野営条例が合衆国憲法修正8条の残酷で異常な刑罰禁止条項に違反しないと判断された事例」『広島文教大学紀要』59巻, pp.79-89, 2024-12-20.
ホームレス排除へ大統領令署名-2025年7月
さらに、現政権成立後、2025年7月24日には、トランプ大統領が「ホームレスが生活する野営地を撤去し、ホームレスをケア施設に移動させるよう都市や州に求める大統領令に署名」しました**。
なお、AHAR***によると、2024年のホームレス経験者数は771,480人、2023年から2023年の間に18%増加、また子どものいる家庭のホームレス経験者は39%増加したと報告されています。
**・Nandita Bose「トランプ氏、ホームレス排除へ大統領令署名 支援団体は批判」Reuters, 2-25年7月25日.・The U.S Department of Housing and Urban Development, The 2024 Annual Homelessness Assessment Report (AHAR) to Congress, PART!: POINT-IN-TIME ESTIMATES OF HOMELESS, December 2024
Part4, IL州のホームレス権利章典(2013)と州内での野宿禁止条例のねじれ
IMLのモデル条例-2024年7月
最高裁での「グランツパス判決」をふまえて、イリノイ州自治体連合(Illinois Municipal League: IML)は、判決の3週間後の2024年7月16日には、モデル条例案(Model Ordinace Regulating Public Camping)を発表しています。州内でも多くの自治体がこれを参照して野宿禁止条例案を作成しています(Cuncil Bill No. 2025-196によると、2025年9月までに21の自治体が公共の場所で野宿を禁止する条例を可決しています)。
イリノイ州のホームレス権利章典-2013
その一方で、イリノイ州法では「ホームレス権利章典(Bill of Rights for the Homeless Act)」(2013年8月22日)が存在しています。州内において「ホームレスであることのみ」を理由に、公共サービスや権利、特権へのアクセスを否定・制限してはならないことを明確にしています。例えば、Sec.10 (1)では、公共空間を自由に利用し、移動する権利を有すると明記されています。

イリノイ州においては、各自治体が定める野宿禁止条例は、州令であるホームレス権利章典などとは相入れない内容ですが、最高裁が公共の場での野宿禁止が米国憲法に違反していないと判断したことによって、各自治体において同様の野宿禁止条例を可決するというねじれた現象が生じています。
IL人権省から地方公共団体へホームレス権利保護関連の書簡-2025年3月
イリノイ州内の自治体による公共キャンプ条例の採択を懸念して、Illinois Department of Human Rightは2025年3月13日には地方公共団体関係者に、公共空間での差別や嫌がらせを禁止、ホームレス状態にある人々への権利を保護するようにと書簡を送っています(Letter to Public Officials – Persons Experiencing Homelessness)。ここでは、「過去15ヶ月の間に、イリノイ州内の少なくとも25のコミュニティが避難所を利用してないホームレスを犯罪とみなす条例を可決した。このようなやり方は、ホームレスの孤立を深め、住居へのアクセスの障壁を増やし、不必要な投獄の連鎖を招く」(by Chief Homelessness Officer Christine Haley)と述べています。
HB1429ーホームレス権利章典の改訂案
さらに、イリノイ州議会では、ホームレス権利章典を強化し、州や市町村が、屋外で生活する人々が公共地で占有・行う生活維持行為(寝る、所持品を置く、調理する等)に対して罰金・刑罰を課す条例や方針を新たに作成・執行することを禁じる改訂案 HB1429を検討中です。

Champaign City Council, CB2025-196ーHB1429を先取りした折衷案
以上のように、公共の場所での野宿禁止の問題は、連邦政府のホームレス排除の動向に対して、州政府や各自治体の方向性は一様ではありません。Champaign City Councilに提案された条例案Cuncil Bill No. 2025-196の場合は、担当弁護士の説明によると、イリノイ州の他の自治体の動向とホームレス権利章典の改訂案を先取りした折衷案になっています(7日前の警告、罰金なし、逮捕せず、犯罪化を回避し、公共のサービスに接続、規制はするが罰則は緩める)。
市議会当日のニュース、怒り爆発、住民たちの瞬発力とつながり
2025年12月2日のChampaign市議会での審議やパブリックコメントの様子については先週のHSでお伝えしました(当日のCGTVはこちらから)。市議会に駆けつけた人のなかには、当日の朝にThe News-Gazetteeの記事*を見て、この条例案の内容について初めて知ったという場合も多かったようです(市議会の議題自体は、前週に告知され CB2025-196もそこで提示されています)。
*Luke Taylor “ Chmpaign council to vote on ordinance bannning public camping” by The News Gazette, Dec. 2, 2025

市議会のPublic Commentに長蛇の列
市議会は午後7時からという遅い時刻から始まります。CB2025-196に関しては、40人もの人が3時間にわたりPublic Opinionを述べました。一人ひとりが自分のことば、経験をその人のスタイルで表現していることが印象的です。また、ことばだけでなく表情や身体の動き、他の人が話している時の反応など、市議会という場の様子が、映像から伝わってきます。
自分事としてのホームレス問題、パーソナルヒストリーの群像劇
話者の立場も様々で、ホームレス支援に関わる様々な団体の関係者も多く集まりましたLGBTQ+という視点からの声、研究者、学生からのコメント、ホームレス経験者として話す人もいました。異なる人の発言のなかで「トラウマ」ということばが何度か出てきました。ホームレスとならざるをえなかった人生、家族、社会における葛藤や、シェルターという環境に馴染むことの難しさなど、ホームレスを通して見える問題は、発言者にとっては自身の経験とも重なる場合もあります。「自分事」としてとらえているからこそ、このパブリックコメントは、一人5分という時間制限の中でパーソナルヒストリーが連なり、緊張が途切れない群像劇になっています。
審議撤回や延長ではなく、一旦の否決。
一般参加者の声を聞いた後の議員や市長とのやりとりも絶妙です。条例案を一旦撤回して再検討した上で再審議するのか、この日の議会で審議を最後まで進めるのか。最終的にはこの条例案は採決され、反対9、賛成0で否決されました。一旦の区切りとはなりましたが、現場の問題が具体的に進展したわけではなく、行政と住民と諸団体がこれを機にどのようなコミュニケーションをとっていくのかが、まずは問われているのかなと思います。

直接参加型の民主主義の怖さも
今回の市議会では野宿禁止条例に反対する人が集まりましたが、もし、この条例案が地方新聞に事前に報道されなければ、あるいは、公衆衛生やあるいは景観という観点から条例案を支持する人たちがより多く集まり意見を述べたならば、人道的な側面は問題とされずに条例案は可決されていたかもしれません。直接の民主主義や草の根のつながりの強さを感じるとともに、一定の手続きをたどり問題は「どちら」にも極端に「傾く」可能性もあるという怖さもMugikoは感じます。
情報の開き方、扱い方、心のおきどころ
Ryutaさんがコメントされたように、情報がどのように公開されたり伝わるかだけでなく、その情報をわたしたちがどう扱うのかの意識によって情報の意味やそこからの実践のかたちが変わってきます。情報の早急の伝達と決断と実践が必要な場合も多々ありますが、その一方で、いろいろな声から学ぶ結論を求めないプロセスもできるだけ開いておきたいなと思います。-Mugi
