Blog:LondonからZine レポート(12) Bishopsgate LibraryのPunk Fanzineに圧倒される, Jan.21, 2019

社会に対する眼差し

2019年1月17日に、Bookartbookshopを訪ね、SKU Fiedlwork Project2018の全Zine作品の写真を見せた時に、Tanyaは、タイトルの英訳一覧に目を通し、「学生たちは自分でフィールドワークのテーマを決めたの?なるほど、このリストは大事だね」と言いました。学生たちが選んだテーマは、ファッション、音楽、スポーツ、旅行、結婚、育児、部活、アルバイト、ボランティア、自営業についてなど、さまざまなです。Tanyaにとっては、Zineから学生たちの社会に対する「眼差し」が見えることが「大事」だと言ったのかなと思います。

‘X:Secular Ex-Votos”, by Tanya Peixoto, Atlas Press and bookartbookshop, 2012

Tanyaの話によると、Bookartbookshopに持ち込まれる最近のZineは、政治的なものよりも、個人の内面を表現するような作品が多いそうです。ふと、「TanyaはZineを作らないの?」と尋ねてみました。すると、「あれ、渡してなかった?」と言って、地下室から持ってきてくれたのが、表紙に『X』と大きく記されたダブロイド版のZineです。

世俗的な奉納画?

正式なタイトルは、『X:Secular Ex-Votos』(2012)で35頁の紙面の各頁には、Tnayaが描いた絵が掲載されています。Tanyaは、もともと彫刻の勉強をしていましたが、絵は独学です。Ex-Votosとは、誓願や救済を求めて聖なる場所に納める「奉納画」です。Tanyaは、旅行の途中で、あるEx-Votosに出会いました。そこから発想を得て、2010年9月から1年間、新聞に掲載された記事と写真を元に自分なりの思いを込めて、絵を描き始めました。

X:Secular Ex-Votos, by Tanya Peixoto, Atlas Press and bookartbookshop, 2012

Minami SanrikuのMr. Tsutoの「非常袋」

その中には、東日本大震災のニュースも含まれています。Minami SanrikuのMr. Tsutoは、「非常袋」を持っていてよかった。地震、津波、原発事故から命は助かったが、家も財産も失い、外は雪が降っている。2011年3月19日」。非常袋の中身の写真を、日本語の文字も含めて絵で再現しています。「ハイチュウ」の袋の横には、High-energy Sweets と英語で説明がつけらています。

私は、カバンの中に、アメリカで買ったHI-CHEWをたまたま持っていたので、Tanyaに、「これ、あなたの絵から出てきた『ハイチュウ』」と言って渡しました。Tanyaは口に入れて、「美味しいガムね」というので、「ガムじゃないよ、食べれるよ」というと、「本当に食べても大丈夫なの、硬いよ」と不安そう。「私を信じてよ」と言うと、小さな店内にいた他のお客さんがそのやりとりを聞いて、クスッと笑いました。

社会の中にアート/Zineがある

Tanyaは、そんなふうに日々のニュースを絵にして日常の中でシェアすることで、それが過去の出来事ではなくて、今も自分がいる世界のどこかで起きていると訴えているような気がします。同時に、それを変えることができるという祈りと意思が一枚一枚の絵に込められています。「社会の中にアート/Zineがある」、TanyaとBookartbookshopとから学んだことです。

イギリスの図書館のZineたち

1月21日、Leilaとは、3年ぶりに会いました。彼女が、London College of Communicationのライブラリアンだった時に、Zine Collectionの話を伺いました(Blog: Sept.16, 2015)。私にBookartbookshopを紹介してくれたのもLeilaです。現在は、University of LondonのSenate House Libraryに勤務しています。昼休みに大学の近くのWellcome Collectionのカフェで話を伺い、イギリスの図書館のZineについての特集が、『Art Libraries Journal』Vol.43-Special Issue2-April 2018の特集”Zines and Libraries in the UK”に掲載されていることを教えてもらいました。

Bishopsgate Institute, 230 Bishopsgate, London EC2M 4QH, 21st Jan., 2019

Bishopsgate Library:予約なしでZineを閲覧できる場所

「今日の午後、予約なしでZineを閲覧できる場所」を尋ねたところ、Leilaが勧めてくれたのが、Bishopsgate InstituteのLibraryにあるPunk Fanzineのコレクションです。地下鉄と鉄道のLIVERPOOL STREET駅 の近くのとても賑やかな場所ですが、建物に入るとアットホームな雰囲気でほっとしました。ラディカルでオープンなカルチュラルセンターという印象を受けました。図書館の奥のリサーチルームの担当者に、「Punk Fanzineを見たいのですが」と言うと、その場で一緒にオンラインのカタログを調べてくれました。

Bishopsgate Library, Bishopsgate Institute, 21st Jan., 2019

Punk Fanzine Collection, 1977−1980

[Title:Punk Fanzine Collection, Reference: PUNK, Date: 1977-80, Scope and Content: Collection and punk fanzines(1977-1980), deposited by Nettie Pollard, including: Box1, Box2, Box3, Box4….]

1970年にPunkのFanzineのブームについて話に聞いたことはあっても、当時のPunkのライブなどで販売されていた「Fanzine」がいったいどのようなものなのか、手にとって見たことが私はありませんでした。

Punk Fanzine @Bishopsgate Library, 21st Jan., 2019¥

PUNKな迫力に圧倒される

リーディングルームの机の上に、PUNK FANZINES①、②、③、④と記された4つの箱がどさっと運ばれて来ました。箱を開くと、そのPUNKな迫力に(Punk Rockという音楽をよく知らない私がいうのも変ですが)、圧倒されました。「すごい!」。この図書館のコレクションは、当時のPunk Fanzineのほんの一部だと思いますが、紙面から溢れる熱気が直接に伝わってきます。とにかく、4つの箱の中にあるZineを全て手に取ってみることにしました。

JAMMING, No.8, 1979 @Bishopsgate Library, 21st January, 2019

DIY精神が満載。人種差別や性差別へのストレートな異議申し立て、露骨な政治批判、強烈なデザイン。パンクロックを支えるファンたちが、音楽を通してこんなに激しく言葉を作って表現していた時代があったのかあ。

Temporary Hoarding RAR(Rock Against Racism) , No.3, No.8, No.9 @Bishopsgate Library, 21st Jan., 2019

A4サイズの雑誌が多く、素人っぽいレイアウトやホッチキス綴じのものから、洗練された構成、デザイン、印刷まで様々です。1970年代後半のロンドンでは、自分たちの手で雑誌を制作しり安価に複写、印刷できる時代になっていたのかなと思います。

当時、Punkのライブに参加し、Fanzineを買ったり作ったり、音楽を通してその時代に激しく関わった人たちは、その後、一人ひとりがその経験をどんなふうに活かしていったのだろう。私がイギリスやアメリカで出会ったZineをめぐるDIYカルチャーを支えている人々は、Bishopsgates Libraryで触れたPunk Fanzineのように、人と社会に関わり続けるエネルギーを発しているなあ、と改めて思いました。Mugi

Punk Fanzines @Bishopsgate Library, 21st January, 2019

 

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