No.641, July 7, 2023,「図書館」×「自分の好きなコンテンツ」SKU2023 企画より with Takakura、Karen(後半)

蒸し暑い!

Champaignも日本各地も猛暑で蒸し暑い一週間でした。いかがお過ごしですか。今週のHarukana Showは、Takakuraさん、Karenさん、Ryutaさん、Mugikoの座談会後半です(前半は、No.640-2)。テーマは、図書館と個々人の「好き」を組み合わせて、どんな企画が可能か。前回は、甲南大学修士課程のKarenさんが、ご自身が大好きな「ブレイクカルチャー」と図書館を掛け合わせた企画を提案しました。今回は、SKU(Students of Konan University)の「メディア文化論」受講生から寄せられた100あまりのアイディアのうち、Takauraさんも図書館でやってみたい企画を2つ話題にしました。一つは「ボーカロイド」、もう一つは「コスプレ」です。

Part1,ところで、「ボーカロイド」とは?

4人でのトークに入る前に、まずはRyutaさんに「ボーカロイド」(VOCALOID)とは何かを短く説明してもらいました。ボーカロイドとは、日本のヤマハが開発した歌声合成技術、ソフトウェアでDTM(デスクトップミュージック)製作に使われます。音符と歌詞を入力して歌声に変換することができます。2007年に発売されている「初音ミク」などが有名です。

*「ボーカロイド」コトバンクなど参照。*「ボカロとはなにか?いまさら聞けない、ボーカロイドの基礎知識」2022.4.4, Yamaha

Part2, ボカロ文化×図書館、文化としてのMANGA

Part3, 図書館のスペース、設備、機材、人材確保

Part4, 図書館でコスプレ企画、開かれた公共の場としての可能性

【SKU企画】ネット文化とボカロ、図書館で作曲体験

「私はネット文化(特にボカロや配信)が好きなので、興味のある人は少ないと思いますが、機材や作曲、歴史を学べるような本を置いたり、図書館の一角に視聴機や作曲できる機材を置いておいて体験できるコーナーがあれば面白いと思います」-HTさん。

ボカロ文化を音楽史からとらえる展示

Takakuraさんも実施してみたいと考えていたのが、図書館でボカロをめぐる展示。実際にイベントをするのであれば、2000年代以降だけでなく、1960年代、80年代の世界の音楽シーンや、ジャズやロック、ラップなどの音楽も掛け合わせた広い意味での音楽史のなかでボカロ文化を扱う企画が実施できないか、と話されました。こうした展示を考えるうえでも、柴那典『初音ミクはなぜ世界を変えたのか』太田出版,2014などが、まずは参考になります。

多言語文化ラップ

この企画案から、トークでは、さらに2つの話題にふれました。一つは、中国や韓国でのラップの流行です。Karenさんの話では、自国の言語でラップが流行しているだけでなく、母語話者でなくても自分のラップに中国語を取り入れるなど多言語文化ラップを、TikTokやインスタのリール動画で多く見ることができます。HSでお届けしたNépal – Règlement Space #3は、フランス語のラップに日本語のドラゴンボールの技がミックスされています。

MANGAという文化の扱われ方

もう1つ話題となったのはMangaです。日本でマンガをたくさん所蔵している公共図書館はそんなに多くありません(福島県白河市立図書館は比較的マンガが充実)。マンガの紙質は劣化しやすいので扱いにくという問題もあります。しかし、日本の図書館でもフランス語圏のマンガ、バンド・デシネは本として扱われることが多いようです。Karenさんは、大学でフランスからの留学生と話していても、日本のマンガについての造詣が深く、日本の一般の学生が知らないニッチなマンガがフランス語に翻訳され販売されているという話を聞いて驚きました。フランスではMangaは文化として根付いています。

Ryuta仮説ー外国文化としての受容

他方、アメリカの図書館では、アメリカンコミックは、一話ずつを発行しページ数が少なく、書籍として扱いにくい。ところが、翻訳されたMANGAは、今や公共図書館でも広く扱われています。Ryuta仮説では、アメリカではMANGAは、外国文化として入ったことによって、日本においてよりも、あるいは自国のアメコミよりも、「文化」として扱われやすかったのではないか。Urbana-Champaignの公共図書館では、Manga本棚が充実しています。

【SKU企画】コスプレ×図書館

「同人誌など即売会があまり頻繁に行われてはいないので、代わりに図書館においてある漫画などのキャラに扮して入場できるという企画」-TTさん。コロナ下において日本でも一時、コミックマーケットが開催されませんでした。大きなコミケではないけれど、身近な図書館で、コスプレ企画をしてみては、というアイディアなのかなと思います。

コスプレ文化の流儀、マナー

Takakuraさんも、もし手を挙げてくれる図書館があったらこの「コスプレ」企画をやってみたいと話されていました。図書館は、古い建造物であったり、書架のスペースも映像として映えます。しかし、コスプレ企画については、図書館からの許可を得るのは難しそう。この企画を成功させるには、まずは、コスプレについてよく知る司書が欠かせません。また、コスプレコミュニティのこだわりやマナーをふまえたうえで、こうしたイベントを実施する必要があります。ゲーム企画もそうですが、どんなイベントにおいても、企画側と参加者、そしてその文化をしっかりと「つなぐ司書」の存在が、イベント実施の可能性と結果を左右します、とTakakuraさんは話されていました。

「加工」込みのコスプレ

Karenさんのお話では、甲南大学ではコスプレ・サークルがあり、文化祭や日常でも、コスプレを目にする機会は多くあります。現在のコスプレは、パフォーマンスだけでなく、映像撮影やその加工などを含めた高い技術も求めらます。図書館でコスプレ企画を実施するとしたら、撮影や発信技術も含めた多角的なアプローチができそうです。

U-Cの公共図書館では、コスプレも

U-Cの公共図書館では、マンガ、コミックを扱うだけでなく、さまざまなパフォーマンスを含め多COMIC CONをが行われています。下記は、2016年にUrbana Free Libraryで実施されたコミコンのポスターです。Mugikoが見かけたのは別の機会ですが、図書館のカフェでコスプレーヤーが普通に談笑していて、違和感はありませんでした。この図書館では、1階に映像作品やMangaなどのコーナもあり、コスプレも場に馴染んでいるという印象受けました。

*Andrew Adams, “Urbana Free Library is laying the groundwork for first Comic Con“, August 10, 2016, Smile Politely

図書館で体験そのものを「資料」として提供

図書館企画はテーマと関連した本を展示する場合が多いけれど、Takakuraさんとしては、ゲームも、ボーカロイド作曲やコスプレもブレイクダンスも、図書館で「体験そのものを資料として提供」することができる考えています。

さまざまな活動を持続的に支え、人と人をつなぐ場所

Champaign Public Libraryの地下1階ではこの夏、本格的なStudioが誕生します。パソコンやVR関連機器、スクリーンの他に、Maker Spaceにはミシンもあります。そんな場所があれば、コスチュームを作ることも、映像の加工や上映も自分が住む地域で可能です。一度の企画に終わらず、図書館が、さまざまなかたちの情報を共有し、地域での活動を持続的に支え、人と人とをつなぐ場になっていくのではないかとMugikoは思います。

アメリカの公共図書館でのMaker Space

アメリカの公共図書館がこの10年、20年のあいだに推進してきたような、Maker Space(PCやいろいろな機器や道具を備えた創作活動のスペース)を備えた公共図書館は、日本ではまだ広くは展開していません。

脳内アイディアを実践できる公共スペース

Karenさんが、Maker Spaceにような、脳内アイディアを実践できるの公共スペースがあれば、利用者がもっと気楽に何かを始めることができるのに、と話していました。

「つなぐ司書」が不可欠

今回のトークのなかでTakakuraさんが使われたキーワードの1つが、「つなぐ司書」です。どんな企画であっても、そのテーマの内容と関係者、そして図書館利用者のあいだをつなぐ人材が不可欠です。たとえMaker Spaceがあったとしても、それらと利用者をつなぐのは、人です。そうした人材をどう確保するのか。日本の雇用では、異なる部署でジェネラルに仕事ができる人材を求めることが多く、特定のプロ(たとえば、仮に、Maker Space Librarianというポジションがあったとして)を雇用するケースは珍しい。

「Field of Dreams」ではない

しかし、アメリカでも日本でも、Ryutaさんが強調されたように、図書館は『Field of Dreams』(1989)ではありません。この映画のように”If you build it , they will come”、といったぐあいに事はうまく運びません。Field of Dreamsではない、インフラ整備が進むだけでは人は集まらないと警告をする図書館情報学研究者もいます。「Takakuraさんのような変革者がいて、図書館は変わっていく」というRyutaさんの言葉も、Takakuraさんのこれまでの活動とその影響を少しでも知ると納得がゆきます。

今後の課題ー図書館のサービス、試みを広く伝える

盛りだくさんのトークの最後に、Takakuraさんが強調されたのは、「日本の図書館がかかえる弱点の一つが、図書館の試みが広く認識されていない」という点です。TakakuraさんがHarukana Showや授業でされたお話は、自身の図書館経験を伝えると同時に、いろいろな人の経験から学び吸収し、それを共有していく姿勢も強く感じました。Ryutaさんのお話では、アメリカでは毎年、「図書館を変えた人」表彰があるそうです。日本には、「つなぐ司書大賞」はないのかな?

その社会にとってPublicとは何か

Takakuraさん、Karenさん、Ryutaさんと何回かにわたってお話をしながら、それぞれの場所の公共図書館は、その地域や社会、文化、経済などの状況、そして、図書館とは何か、ひいては、publicとは何かを住民がどうとらえているかを反映しているとMugikoは思いました。

豊かな人材、機材やスキルや場所やアイディアを共有

Ryutaさんがコメントされたように、U-Cにはイリノイ大学という州でも最大の大学があり、図書館や地域の活動をサポートする人材も豊かです。たとえばUCIMCは、2000年に設立されたNPOですが、機材やスキル、場所、そして多様なアイディアを共有して、誰でもが表現し社会と関わる機会を作ることを理念としてさまざまな活動を展開してきました(Makerspace、Zine Library, Community Radio, Books to Prisonersなど)。

試行錯誤のプロセスも伝える

図書館に限らず、何かを変えていったり、始めるときに、結果としての成果だけでなく、試行錯誤の「途中を伝えていく」ことも、誰かにとっての刺激や励みになったり、実践的な情報として役立つのではないかと思います。-Mugi

■CHEE「七夕」■Népal – Règlement Space #3 ■ryo (supercell) feat. 初音ミク「メルト

*イリノイ大学図書館員カード、Superhero Trading Cards、一人ひとりのコミック風(?)似顔絵の裏には、部署、専門、「超」能力などが記されています。2019年4月にUCIMCで開催されたSmall Press FestのUniversity Library boothに並べられ、子どもたちも手にとって楽しんでいました。コミュニケーションの方法はいろいろです。Blog: Small Press Fest @ UCIMCを3倍楽しむ、April 13, 2019, No.440, August23, 2019, Outreach Activities of University Library with Sarah-Mugi

*CUPHDのCOVID Case and Testing Dataが、2023年7月7日現在、更新されていませんでした。

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