No.644, July 28, 2023, リソグラフ印刷、メディアとしてのスタジオwith Oda-san

暑さ吹き飛ぶ、めちゃくちゃ元気なお話

ChampaignもKyotoも猛暑が続いています。茹(う)だるような暑さのなか、一時帰国中のWataruさんがMugikoに会いにKyotoに来てくださいました(嬉しい!)。イリノイ大学地理学部博士課程で共に学んだ友人のFikさんが来日されているというのでご紹介いただきました。Fikさんは、なんと、一人で、富士山に登ってきたそうです。ええ!! びっくり。いつか、Harukana  Showでお話を伺いたいですね。2人から爽やかなエネルギーを分けてもらいました。

Part1, 海外からの観光客に人気、富士登山

【大混乱】富士山が山開き「ご来光」目当てに外国人観光客が殺到し山頂大渋滞 「弾丸登山」「軽装」で救急搬送される人も。 FNNプライムオンライン 配信

Part2, 日本のリソグラフと保守サービス、海外での展開、日本への逆輸入

Part3, 日本のリソのカラー印刷、遅れた展開、メディアとしてのスタジオ

セルフ・パブリッシングを共有する-Odaさん

前回(HS No.643) は、Odaさんにとっての音楽とDIYカルチャーとPunkとfanzine、そして「編集業」についてお話を伺いました。今週の話題は、リソグラフ印刷とhand saw pressのスタジオ運営についてです。収録は、7月14日です。トークの内容は、ここではMugikoが文章にまとめます。詳細は、本日のPart2 &Part3をぜひお聞きください。また、Akinobu Oda Note, D.I.Y.パブリッシングのススメは、Odaさんの本作り、セルフ・パブリッシングへの思いと経験とスキルが、毎話、わかりやすく、伝えられています。-Mugi

出版業界の不況、これから、どうやって本を作るのか

Odaさんは、インディレーベルcompare notesを主宰し、出版レーベルmapの構成員として自分たちが作りたい書籍や雑誌を作ってきました。しかし、2000年代以降、出版業界は不況に陥り、自分たちが制作した本を2000部、3000部を売ることは難しく、せいぜい200部〜300部、普通の印刷所での本作りをしていては「モト」がとれなくなりました。インターネットが一気に広がり始めた時代、海外での本作りの状況を調べているうちに、カラーのリソグラフ印刷のZINEが出回っていることに気づきます。

全国の学校で普及したリソグラフ、日本の保守サービス

リソグラフは日本の理想科学(工業株式会社、RISO KAGAKU COOPERATION)が、1980年から販売しているデジタル孔版印刷機(Digital duplicator)です。学校のプリントなど、一定部数印刷する場合、費用がコピー機の印刷より圧倒的に安く、90年代にかけて全国の学校で導入されました。そのほとんどが、黒インクでの印刷でした。また、日本の場合、メーカーの保守サービスを利用し、機械はリース、インク代、トナー代はタダで、利用枚数をカウントし支払います。故障した場合は、利用者が機械の内部をいじらなくても、メーカーが修理してくれます。

*「リソグラフは、ガリ版などの孔版印刷の原理に理想科学独自の技術融合させた高速デジタル印刷機。印刷の元となる版(マスター)を作り、内部の印刷ドラムに巻き付け、紙を通して印刷行うしくみです」「リソグラフを知る」RISO。*1977年に「プリントゴッコ」が販売され、家庭での年賀状などのオリジナルデザインのカラー印刷できるようになり大ヒットしました。2008年まで販売。

海外でのリソグラフの「勝手」な創意工夫と使い方の進化

リソグラフは海外でも普及していきますが、日本のような保守サービスはなく、中古の機会を利用者がさまざまに活用していきます。古くなり放置された機械に、赤のインクを混ぜて紫の印刷になるなど、勝手な創意工夫によってカラー印刷の可能性が進化していきました。例えば、オランダのKnustPressや、ノルウェーのpamflettでは、早くからリソグラフによるカラーのアート作品が印刷されていました。

世界中の広がるDIYなリソスタジオ

こうしてリソスタジオが世界中の作られていきました。STENCIL /A RISO wiki for artists, designers, and printerなどで確認できるだけで、1000をこすリソスタジオがあり、実数はさらに多く存在すると思われます。各スタジオの方向性は、種類の違う「黒」だけ扱う、多色印刷可能なアート系、できるだけ格安に印刷、基本色4色だけで地域住民の広く利用、などさまざまです。

RISOのカラー印刷

2000年初めにはRISOのカラー印刷は5色ほどでしたが、その後、色を増やし2017年には基本色が17になりました。うちグレーは2色あります、というのは、日本では葬儀に関連した印刷は薄墨にするので、黒ではないグレーの色が開発されて多くのリソグラフが葬儀関連の会社でも使われています。孔版印刷のデジタル印刷機は他社でも開発されていますが、理想科学は早くからインクの開発も会社の中心事業として手がけており、リソグラフのカラー印刷も展開しやすかったのです。

出遅れた“本場”日本でのリソカラー印刷

世界中でRISOが世界のそれぞれの場所でDIYに展開し進化していることを、しかし、理想科学は近年ま把握していませんでした。“本場”の日本で、リソグラフのカラー印刷ができる印刷所は限られていました。

Osakaのレトロ印刷 JAM、Tokyoの中野活版印刷 

2005年に大阪のレトロ印刷 JAMが開設されたことは大きな出来事でした。多様なシルクスクリーン印刷が可能となりましたがしかし、立会い印刷はできず、アート作品を印刷することは難しいという現状でした。しかし、2009年から日本や韓国でも、ART BOOK FIARが毎年、開催されるようになり、そこで、リソグラフのアート作品に触れる機会が多くなりました。中野活版印刷が、2012年からリソグラフ印刷機を導入しました。予約すれば事務所で一緒に印刷もできます。

なぎ食堂にリソグラフ印刷機

Odaさんが自分が運営する東京の「なぎ食堂」の片隅に、リソグラフを置くようになったのは、2014年夏です。中古だったら本1冊を印刷するより安い価格で印刷機が買えます。ある時、Odaさんは、ヤフオクで衝動的に落札してしまった印刷機を、最初はどう使っていいかよくわかりませんでした。昼間はプリンターの上に板をおいて食器置きに、食堂を閉めてから夜、印刷をしました。

なんで日本で本格的リソスタジオをしないのか!?

STENCILにも登録したら、それをみてチリから訪問客がありました。リソスタジオだと思っていたら昼間は食堂、「チリでは中古の機材もドラムも日本の何倍もする。日本はリソスタジオを運営するうえでこんなに恵まれた環境にあるのに、なんで本格的なリソスタジオをしないのか!」と叱咤激励されました。そのうちにリソ印刷に関心をもつ若い共同運営者をえてOdaさんたちは、HandSawPress (Risograph & Open D. I. Y. Studio)を立ち上げ、2017年から本格的な活動を開始します。

メディアとしてのリソスタジオ、印刷機がもつ力

HandSawPressがめざしたのは、メディアとしてのプリントスタジオです。安価でできる、あるいは独自のアート作品ができる多目的利用が可能な印刷機があることで、いろいろな人が集まってくる、誰でもメディアを作ることができる。Odaさんは編集者としての経験がありますが、他のスタッフは建築やコミュニケーション論に関心がありました。「印刷機」がもつ力、そこから何かが始まり展開することが、めちゃくちゃ、面白い。

HandSawPress Kyoto

Odaさんは、2019年に京都に引っ越し、 HandSawPress Kyotoを開設しました。今は、インターネットを使えば、誰でも発信できる時代です。それでも、印刷は、手に取れるから、触れることができるから、そこに大きな意味があります。

地方で印刷機があること、リソグラフスタジオ立ち上げのサポート

印刷機があることで、そこから何が起きうるのか。地方であるほど、小さな町に、リソグラフがそこにあることの、世界が起きていることを地元でできることのインパクトがあります。印刷したものを、娘に、近所の人に、町のイベントに渡すことができます。Odaさんは、コミュニティと関わるリソグラフスタジオの立ち上げをサポートしたり、全国のリソグラフスタジオとさまざまにつながり情報を交換しスキルを共有しています。地方でのリソスタジオが、今、まさに展開中です。続きのライブなお話は、また、いつかHarukana Showで。まとめ-Mugi

D.I.Y.なRISO文化、メディアとしてのスタジオ

以上が、Odaさんのトークの内容です。これは、Odaさんの現在進行形の活動のほんの一部です。いろんなことやりすぎて、と苦笑しながらOdaさんは、ご自身の活動とその背景にある、世界のRISO文化や、メディアとしての印刷所の意味について、今回は語ってくださいました。

さまざまな話題のグローカルなリンク

それは、リソグラフやZINEに限らず、Harukana Showでのこれまでのさまざまな出演者が場所をこえて語り、またMugikoやRyutaさんが日本や海外でで見てきたこととも重なります。Ryutaさんが、「Odaさんの印刷スタジオを作る試みは、以前、ブックフェスタしずおかの話(No.605)のときに少し出てきた『みんなの図書館』のような私設図書館や、メイカースペースの話などとも似たところがあって面白いですね」とおっしゃっていました。Odaさんのトークをめぐって、Ryutaさんとさらにいろいろとおしゃべりしてみたいと思います。

走りながらコトバを探す、リアルな儚さをカタチにする

Mugikoが、Odaさんとのトークをとおして印象深かったのは、Odaさんが自身の体験を語りながらも、今、自分が何をしようとしているのかを、コトバを探している様子です。ゴールに向かって突っ走るのではなく、それぞれの場所での異なる状況の中で、今できることを戸惑いながらD. I. Y.してゆく。そこから何が生まれるのか、そのプロセスのなかで、コトバが、あとさきに生まれ、消費されていく。そのリアルな儚さをカタチにできたら、それを誰かと共有できたら、幸せなことだなあと思いました。-Mugi

■電気グルーヴィ「富士山」■Bad Religion「21 Century (Digital Boy)」■David Bowie「Ziggy Stardust」■Daniel Johnston “True Love Will Find You In the End

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