No.645, Aug. 4, 2023, 商業主義とDIY文化、「場」作りと距離感

猛暑と台風6号、厳しい夏

日本は全国で酷暑、沖縄では台風6号による暴風雨が続き、今後の進路によっては、西日本へ接近、上陸する恐れがあります。番組の収録は、日本時間の8月2日(水)、RyutaさんはShizuokaから、MugikoはKyotoからの出演です。Part1では、Wataruさんからメッセージとリクエスト曲を紹介し、後半(Part2 & 3)では、先週までのOdaさんとのトーク(No. 643 & No. 644)についての感想を述べています。

Part1, UCIMCでNational Night  Out、警察のパトロール、日本の交番

日本からChampaignの戻ったWataruさんからイリノイ大学のキャンパスの写真が届きました。「今日のキャンパスは、 National Night Out という警察主催?のイベントで、ヘリコプターが展示されるなど賑わっていました。なお山火事の影響はとっくにないようで、澄んだ空気です」( Aug. 1, 2023)。8月第1火曜日には、警察と連携して防犯意識を高める地域イベントが、アメリカの各地で開催されているようです。

Central IL police to mark National Night Out with community events“、CENTRAL ILLINOIS (WCIA)、 July 31, 2034, 06:58 PM CDT

Part2, カウンターカルチャーとしてのDIY、「日曜大工」とは違う?

Part3, メーカームーブメント、共有/ゆるやかなコミットメント、距離感

それぞれの時代の対抗文化はあったけれど

OdaさんとのトークのなかでMugikoは、「80年代のパンクがどうしてDIYカルチャーなのか」と唐突に尋ねている場面があります。DIYや対抗文化はパンクを待たず、それまでにも多様に展開されてきたのではないか*、と思ったからです。

“Alternative do-it-yourself (DIY) publishing in the UK is often assumed to have started with photocopiers and punks. However, counterculture and grassroots movements from the mid-1960s onwards generated an explosion of alternative ‘ not for profit’ print and publications, frequently produced by amateurs using basic technologies.” Baines, J, Credland, T & Pawson, M (2018). “Doing it Ourselves: Countercultural and alternative radical publishing in the decade before punk”.In Subcultures Network. (eds), Ripped, Torn and Cut: Pop, Politics and Punk Fanzines from 1976. Manchester University Press.

Mugikoは、60年代のロンドンのNotting Hillという場所でコミュニティ活動や対抗文化の活動に関わってきた人たちにお話を伺い(何人かはHSにも出演)*、GMZにもまとめてきました。当時、20歳代、30歳代だった活動家や住民たちは、教会や公園でさまざまな規模のライブイベントを開催し、ライブハウスを開きました。また、自分たちのメディアを作るために、オフセット印刷機をそなえた印刷所を開設し、地域の人々がこれを利用してきました**。

*Blog: LondonからZineレポート(7):GMZ#3がつなぐ縁, Sept.11-19, 2016, *No.417, March 15, 2019, Special Interview with Joe Boyd, as an outsider to the UK in the 1960s, *No.418, March 22, 2019,Special Interview with Peter Jenner(1) London Free School, Pink Floyd, No.419, March29, 2019, Special Interview with Peter Jenner(2) Hyde Park Free Concert, Music and Politics, **西川麦子「1960年代,ノッティングヒルにおけるコミュニティアクションとしての印刷所 ―Notting Hill Press の「新しい運動」のかたち―」『甲南大学紀要, 文学編』173, 2023, 91-108

商業主義とDIYカルチャー

Odaさんが、80年代のパンクが、「商業化」された音楽業界への反発や批判から生まれたといった説明をされて、なるほどなあ、と思いました。60年代のイギリスで、当時はまだマイノリティだった音楽(ロックにしても)に携わってきた人たちが開いてきたニッチな市場が、70年代にはあっという間にポップとなり商業主義が成立します。その一方で創作や演奏活動、そして情報と人をつなぐメディアが、個人レベルでも利用可能となって、DIYカルチャーがフルに展開ができるようになっていきました。対抗文化もDIYカルチャーも、ある意味で大量生産・消費の時代から派生した精神でもあるのかなと思います。

Zine、メインストリームに抗するメディア

2011年4月、第4回のHSに出演されたChrisさんは、UCIMCのZine Libraryに関わるようになったのは、「メインストリーム抗するメディアとしてのZineに関心をもったからだ」と話されていました。パンクのFanzineに限らず、世の中になじめない自分について語ろうとするパージン(Personal Zine)も、メインストリームに抗する声であり、Zineは時代の多様性を映し出しています。

*Blog: Chrisさんのインタビュー(April22, 2011) Zine:メインストリームに抗するメディア

メイカームーブメント〜他者と関わり共有する

Ryutaさんが番組のなかで話されたように、日本でも、1980年代以前から「日曜大工」という表現はあったし、それ以前に、暮らしのさまざまなレベルで自分で作らざるえない時代が長くありました。それから、より便利にクリエイティブなDIYを楽しむことができるようになり、さらに、90年代以降、2000年代には、PCとインターネットが一般の人々にもより広く利用できるようになったときに、他者とアイディアやスキルを共有し何かを作り出していくことが一層可能になりました。それが、Ryutaさんが言及されたメイカームーブメントです。

不特定多数のみんなと作りだす

誰でもメイカーになれるし、他者と関わり何かを作り出すことができる。どの時代においてもすでにあるものを利用しながら新たな発想が生まれ創作が行われますが、現在は、アイディアやスキルや工程を共有する方法が、グローバルに進化しています。先月のHSでTakakuraさんとKarenさんをゲストに迎えてのトーク(No. 641)で、日本の「ボーカロイド(VOCALOID)というDTM(デスクトップミュージック)のソフトフェアの展開が話題になりました。これも、パーソナルな音楽制作の可能性を拡張させ、しかし、ゼロからの独自性ではなく、不特定多数のみんなで作る音楽という前提があります。

人が集まる「場」作り

HSでも図書館が「場」としてどのような開き方をしているのか、あるいは、地域において住民やあるいは地域内外の垣根のないゆるやかなつながりを生み出す場作りの話をこの数年のあいに、Takakuraさん(No.600, No.601-2, No.602-2, No. 640-2, No.641)やHiさん(No.534, No.535, No. 612, No. 613, No.614)、Shinyaさん(No.536, No.598-2, No.599)、 Rutaさん(No.605, No.617 , etc.)から伺ってきました。Odaさんのリソグラフスタジオの話も、世界の多様なリソスタジオの存在に触発されつつも、それぞれのローカルな場所に印刷機というツールを置くことで、その町で、人が関わるきっかを生み出していく仕掛けを各地につくろうとされているのかなと思います。

「場」作りと「距離感」

UCIMCは、インディペンデント・メディア・センターという名のとおり、2000年に設立された当時から、マスメディアや商業主義から独立して自分たちが、情報や技術や場所を共有する場と活動を生み出してきました。2011年にHSを開始してから、UCIMCやWRFUの運営を垣間見て感心するのは、そこでの活動に長年関わるボランティアのさらりとした「距離感」です。「(凝るけど)没入しすぎない」「(多様な活動の)時間を区切る」「自分の名をわざわざ残さない」(でも、頼りにされてしまうけれど)

干渉しないが関わり合う

関係者のそれぞれの政治的な志向や趣向は一様ではありませんが、互いに深く干渉せず、かといって無視しているわけではない。WRFUのターンテーブル案件(No. 643)も、新しいメンバーのアイディアをうけとめ、できる範囲で何とかしようとする。なかなか前に進まないけれど、いろいろな人とプロセスを共有することで、プロジェクトがその次へと繋がっていくはずです。-Mugi

Risographのアプロプリエーション-Ryuta

元は教育機関やオフィス向けの大量印刷のソリューションとして販売されていたRisographが、DIY的な出版、印刷を志す海外のzinester (zine作成者) たちに「発見」され、小規模出版に使われるようになった、という流れは、利用者による、製造者、デザイナーが意図していなかった方向への技術のアプロプリエーション(簒奪?)の実例としても面白いです。

(放送ではヒップホップDJがレコードプレーヤーのターンテーブルを楽器として使うようになった例と似ているかもしれない、という話もしました。そのときにベスタクスという現在は消滅した日本企業のブランドを例に出しましたが、ベスタクスは元々DJ用のミキサーを作っていてターンテーブルに参入したようなので、例としてはあまり正しくなかったかもしれません……。)– Ryuta 

リソグラフスタジオをみると何かが作りたくなるかも!-Tateishi

タテイシ ナオフミ『DIY TRIP SEATTLE & PORTLAND 手作り印刷物とDIY精神をめぐる旅〜シアトル・ポートランド編』2011リソグラフスタジオをみると何かが作りたくなるかも!

Odaさんのトーク、全二回を拝聴しました。リソグラフスタジオを本当に作ることになった経緯がとくに興味深いです。私の場合、ポートランドのZINEづくりNPOを見学し、そういう「場作り」にあこがれを持ったものの、数年後にその取材記録をもとに作ったZINEで「でも日本では難しいだろうな」とあっさりと「あきらめ」を表明してしまっており、そのことがいまだに、なんというか、恥ずかしく思う部分があります。こうして現実にカタチにしていく行動力と勇気というものが自分にはなかったよなぁ・・・と思うことしきり、でした。その他の、Odaさんを彩る様々なカルチャー遍歴も、きわめて初心者にも分かりやすく語ってくださり、さすが編集者だなぁと思わせました。最近はまったくZINEづくりに遠のいていますが、リソグラフスタジオをみると何か作りたくなるかもしれません。-Tateishi

*No.222, June26, 2015 En-Zineトーク(1)TateishiさんのZINEな生き方,*Blog:St. Louis からZineレポート(1) クリエイティブに模索する公共図書館,Zine Collection & Recording Room, Oct.22, 2018

■UA「会いにいこう」(2023年7月21日より東海道新幹線の車内チャイム)■never young beach「あまり行かない喫茶店で」■米津玄師「地球儀」7月14日に公開されたスタジオジブリ最新作 宮崎駿監督「君たちはどう生きるか」主題歌

CUPHDのCOVID-19感染者届出数-2023年8月1日現在

*7月は公開されていなかったCUPHDのCOVID-19関連の統計が、8月1日付けで更新されていました。感染者の届出も入院者数もこれまでになく減少しています。それでも、Champaign在住のTomさんは、PACAに来る人の中にも知り合いが感染した話はよく聞くけれど、軽症なら届出をしなくなったのでは、と話していました。

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