先週のHS No. 730では、NanaさんにTranslation Studies(TS)について概説していただきました。今回は、TSとMangaの翻訳についてのお話から始まります。なお、今週のトークのPart1は、No. 731-1をご覧ください。
Part2, TSとMangaの翻訳、「役割語」、「オノマトペ」with Nana
日本語の豊な「役割語」と翻訳の難しさ
Nanaさんが最初にふれられたのが、日本語の多様な主語についてです。一人称代名詞だけでも、わたし、わたくし、わし、ぼく、おれ、おいら、あたち、吾輩、、、などなど、日本語では性別、年齢、階層、職業、地域によっても、さまざまな表現があります。たとえば、「わし」は、ある程度、年配の男性、というイメージがあります。こうした特定の人物像を想起させる主語や文末表現などを「役割語」といいます。Mangaでは、登場人物の特性をわかりやすく描くためにも、役割語がたくさん使われています。ところが英語に翻訳すると、さまざまな一人称がどれも”I”となってしまいます。それぞれの言語で、日本語の役割語をどのように表現するのか。Manga翻訳の難しさでもあり、面白いところでもあります。(まとめ – Mugi)
Nanaさんとのトークをとおして、Mugikoは初めて「役割語」という言葉を知りました。そこで関連本を探してみました。金水敏 2003『<もっと知りたい!日本語>ヴァーチャル日本語役割語の謎』岩波書店、金水敏編 2014『<役割語>小辞典』研究社には、さまざまな役割語やマンガの事例が具体的に示されていて、作品のバーチャルな世界をリアルに楽しめます。-Mugi
オノマトペー言語によって擬態語、擬音語は多様
日本語は、英語と比べるとオノマトペ(擬態語・擬音語)が多いと言われ、Mangaにもたくさん使われています。このオノマトペの翻訳も容易ではありません。そこで表記された読み方を音としてそのまま別の言語に記すわけではありません。たとえば、豚のなき声は日本語では「ブーブー」と表しますが、英語では”oink oink”です。
また、言語によって使われない音や、耳に入っているけれど認識されにくい音もあります。フランス語では、”h”は発音されないので、ロンドンのデパートHarrodsは、日本語を話す人であればハロッズと読みますが、フランス語の発音ではアロッズとなります。Mangaをフランス語に翻訳する際に、特に爆発音のオノマトペの翻訳には苦労するという話を、Nanaさんは翻訳者から聞いたことがあるそうです。(まとめ – Mugi)
Mangaの技法を取り入れた、別言語でManga創作
Ryutaさんがおっしゃったように、日本語のカタカナ、ひらがなは表音文字なので、新しい擬音語が生まれやすい、のかもしれません。海外ではMangaの技法を取り入れて、日本語ではなく英語など別の言語でMangaを描く際に、その言語にはない擬態語・擬音語をManga風にどう創作するのか、興味深いですね、とRyutaさんがコメントされていました。
文字化されない言語も含めて多数の言語からの情報を学習したAIが、もしMangaを翻訳したり創作するときに、どんなオノマトペを作りだすだろうかと、Nanaさん、Ryutaさんとのトークを聞いて思いました。-Mugi
Part3, NanaさんのLondon暮らしと気づき
Londonでは第2の空前の日本食ブーム、高級食材店に日本産マヨネーズ
Nanaさんのお話では、ロンドンはただいま、第2の空前の日本食ブーム。そこでの日本食とは、 “posh”(高級)でかっこいいというイメージです。高級食材店に、イタリアやフランスの上等なチーズと並んで、日本のマヨネーズや醤油が販売されています。日本人から見ると身近な暮らしの食材や料理が、ロンドンでは日本ブランドとして上等なものとして扱われ、ラーメンも£20のお値段だったりします。
暮らしてみて気づくアメリカ英語とイギリス英語の違い
また、イギリスに暮らしてみてNanaさんは、自分が日本で学んだのはアメリカ英語であり、イギリス英語とは発音や表現も違いがあることに気づくようになりました。イギリスで話される英語では、日本語の間接的な表現に近いと感じることもあるそうです。たとえばイギリス英語では、“Could you….?”と表現することが多く、”Can you….?”と言われると、Nanaさんは今ではドキッとするそうです。
多文化・多言語な都市空間、地域、文化、階層によって英語は多様
多様性という点では、ロンドンでは、住む場所によっても階層によっても誰と話すかによっても、使われる言語や表現は一様ではありません。イギリス、特にロンドンでは英国外の出身者も多く、複数の言語を使う人もたくさんいます。また、英国内でも、場所によって英語の発音などには違いがあります。Nanaさんが以前住んでいたイギリス東部のNorwichでは、最初にタクシーに乗った時に、現地の英語が理解できなかったそうです。イギリス出身者でも、国内の違う土地の英語を容易に聞き取れない場合もあります。唯一の「正しい英語」があるのではないということを、Nanaさんはイギリスでの暮らしで実感しています。(まとめ – Mugi)
Mugikoのロンドンへの印象、他人同士の距離感と多様性への認識
Mugikoは、ロンドンにいた時に、これだけたくさんの人がいて、たくさんの言語が耳に入ってくるのに、街や地下鉄でも人が目を合わさないことに最初、驚きました。でも、ロンドンで地域の活動に関わったり、調査でいろいろな人と話すうちに、そこで出会った一人ひとりが、Mugikoのわかりにくい英語にじっくりと付き合ってくれ、英語ネイティブではない人とのコミュニケーションに慣れているなあと感じました。
TSとは文化の間の研究、「自分の翻訳」-Nana
Nanaさんは、「TSは日本では異文化コミュニケーションとしてプログラムが提供
TSと世界の見方、つながり方
NanaさんからTSについてのお話やロンドンの様子を伺って、TSには、さまざまな意味での多様性のなかで自分を含めた世界をどのような角度から見て、人とつながっていくのかを考えるヒントがたくさんあるなあと思いました。
HSは、来週から15年目に入ります。14年間の締め括りに、Nanaさんとのの広く深いTS話を、番組をとおして多くの人と共有できてうれしいです。ありがとうございます。感謝を込めて。Mugi