No. 742-1, June 13, 2025, 「戦争とマンガ展2」巡回展、戦後80年を沖縄マンガから問う with Yu-san

HS、20分遅れの始まり!

本日のHarukana Showは、20分遅れて始まりました。お待たせしてたいへん申し訳ありませんでした。Podcast Part1・2・3で、Yuさんとのトークを改めてお楽しみください。また、WRFU Show ArivesのHarukana Show番組アーカイブでは、毎週の番組(音楽入り)を聴くことができます(今週の番組:2025-06-13-1800.mp3 (55MB) )。

Yuさんとマンガ文化を深堀り(2) 戦争マンガと沖縄

沖縄から「戦争とマンガ展2」

京都国際マンガミュージアム(MM)のイトウユウさんとの2025年6月トークの第2回です。前回(No. 741)は、マンガ文化とミュージアム、そしてアカデミズムについて深堀りしました。今回は、MMが主催し沖縄と京都を巡回する「戦争とマンガ展2」についてじっくりとお話を伺いました。

「マンガと戦争展1」は、戦後70年を機に10年前に開催されました。その続編である「2」では、あえて「沖縄マンガ」を扱っています。戦後80年の現在において、戦争マンガをとおして何を問いかけようとしているのか。Yuさんとのトークの内容の一部を、Mugikoが文章にまとめましたが、ぜひPodcastの音声をお楽しみください。-Mugi

Part1, 沖縄から「戦争とマンガ展2」、「本土」とは異なるメディア展開

Part2, 「沖縄マンガ」の独自性、戦争マンガというジャンル

Part3, ファンこそ資料と深い知識、参加者に開かれた大衆文化の展示

戦後80年と「戦争マンガ」〜時代のきな臭さを反映

戦後80年の現在、戦争マンガは以前より多く作られています。なかでも占領期を舞台にして、「明るい未来」を描くのではなく、いまだ「戦時」状況が続いているというトーンの作品がたくさんあります。マンガは社会の空気をビビッドに描きだす面白いメディアです。こうした近年の戦争マンガも、今、多くの人が感じている、ある種のきな臭さを反映しているのかもしれません。

「マンガと戦争展2」と沖縄マンガ

そこで2025年展示では、「戦時」状態が長く続いている場所として沖縄に注目しました。沖縄には、日本の他の地域では知られていない「沖縄マンガ」がたくさんあります。沖縄出身の作家による、沖縄を舞台にしたマンガで、沖縄で出版され沖縄で読まれています。いわゆる「ご当地マンガ」は、他の地域の人に読まれ、その地域について知ってもらうことを意図していますが、沖縄マンガはむしろ、沖縄の人々に読まれることを前提に、沖縄という場所、暮らしの風景が描かれています。かつては、紙媒体の沖縄マンガ雑誌がありましたが、近年はWebに移行しています。

沖縄のマンガをはじめ、他の出版やテレビ放送など、沖縄独自の流通、メディア状況が存在してきたという印象をYuさんは受けています。

新里堅進作品の原画展示、琉球新報ギャラリーでの巡回展

沖縄マンガの作者の一人が新里堅進(1946-)さんです。新里さんは、沖縄戦や沖縄を舞台にしたマンガを50年以上、描き続けています。Yuさんは、マンガの原画をアーカイブするプロジェクトに10年以上関わってきましたが、そこで新里作品に出会いました。「戦争とマンガ展2」では、沖縄をテーマの1つとして扱い、新里さんらの原画を展示することにしました。また、新里作品を出版している新聞社である琉球新報がギャラリーを提供し、「戦争とマンガ展2」(5月15日〜6月10日)が沖縄から始まりました。

「戦争マンガ」〜極限状態を舞台にした人間ドラマ

戦争マンガというジャンルは、戦争という極限状態を舞台とした「人間ドラマ」を描いています。中沢啓治の『はだしのゲン』(1973-1987)のような原爆体験を伝えるアーカイブ意識をもつマンガも存在します。しかし、極限状態での性的なものを含めた暴力性をエンタメとして描くような、ある種の「言い訳」として戦争を扱うマンガもあります。

沖縄マンガと戦争と「マンガと戦争展2」

戦争を描いた沖縄マンガは、たくさん存在します。それぞれのマンガには、沖縄という場所での戦争や戦時、政治的な状況を「後世に伝え」、戦争について考え続けるという意識が強くあるとYuさんは考えています。沖縄マンガを含む戦争マンガをさまざまなテーマから展示する「マンガと戦争展2」を、沖縄という場所からは始めることには、京都での展示とはまた違う緊張感があります。「2」の沖縄展と、7月に京都国際マンガミュージアムで開催予定の「マンガと戦争展2」での反応がどのように違うのか、そこから何を考えることができるのか、Yuさんにとっても楽しみです。

巡回展〜構成と解説は共通、各展示会場での補足説明

「マンガと戦争展1」は国内外の複数の場所を巡回し、アメリカでも展示されました。巡回展においても、それぞれの場所での展示の構成や解説は基本的には同じです。巡回展の開催場所によって、補足説明などをつけていただくことは、歓迎しています。

ポピュラーカルチャーの展示〜多様な解釈に開かれた場

マンガの展示は、「わからないこと」も含めて展示し、来場者からのリアクションを期待しています。一番重要な資料は、ミュージアムよりも長年のファンの方が持っていてドキュメントへの知識もあります。マンガ展示は、時には「水物」と馬鹿にされることもあるけれど、見る側から教えてもらうという姿勢は、マンガに限らずポピュラーカルチャーの展示に共通しているのではないかとYuさんは考えています。マンガ展示は、そうしたファンも含めてさまざまな来場者に来ていただき、多様な意見や解釈を交える開かれた場でもあります。

来場者のリアクションを共有する

「マンガと戦争展」のような強いテーマでは、「担当者を呼んでくれ」というリアクションはよくあります。来場者にはアンケートをすることもありますが、最近は、「自由に書いてください」と紙をおいておいたり、あるいは展示会場に感想を貼ってもらうようにして、来場者からのコメントを他の人とも共有する工夫をしています。すると多くの人がメッセージや絵を添えてくれます。マンガは読む人と描く人の敷居が低く、マンガが好きな人たちは、マンガについて書いたり、マンガを描くことも好きな人が多くいます。アメコミのヒーローは美術を勉強した人でないと描くのが難しいですが、日本のマンガはもともと記号的で描きやすいです。マンガは多くの人が読むだけでなく、広く表現する文化でもあります。-まとめ by Mugi

「社会的なメディア」としてのミュージアム

ミュージアムの「巡回」展は、Ryutaさんがコメントされたように、場所によって反応が異なります。アメリカで「マンガと戦争」に関する展示がされたら、そもそもこの戦争について初めて知る人や、おじいちゃんが従軍していた、日本に駐留していたと聞いているという親族が来るかもしれません。その国やその人の立場によって、戦争も戦後の記憶も一様ではありません。「戦争」という世界的な状況が続くなかで、「マンガと戦争展2」が、今後、どのように巡回していくのかは、Ryutaさんの言葉にあったように、「社会的なメディア」としてのミュージアムについて考える貴重な機会にもなりそうです。

マンガというメディアをとおして「戦後とは何か」を再考する

マンガが時代を映し出すメディアだからこそ、「マンガと戦争展2」は、戦後80年という時点から現在とこれからについて、見る人がそれぞれに、いろいろな角度から考えることができそうです。また、Harukana ShowではAkiさんがRyutaさんと、占領期日本のGHQ/CIEの図書館、ラジオ課についても語っています*。アメリカ統治下沖縄のラジオについては、Akiさんの論文(松本章伸2025)**をご参照ください。-Mugi

No.635, May 26, 2023, 占領期日本のCIE図書館とCIEラジオ課 with Ryuta & Aki****No.636, June 2, 2023, 占領期日本の民主化政策と「現場」-CIEラジオ課とCIE図書館
松本章伸「共鳴する親子ラジオ:アメリカ統治下沖縄のラジオ方オスが紡いだもう一つの歴史」笠井賢紀・田島英一編著『パブリック・ヒストリーの実践:オルタナティブで多声的な歴史を描く』慶應義塾大学出版会2025, pp.41-62

マンガミュージアムの「開かれた場」作りとアカデミズム

Mugikoにとっては、開かれた場作りとしてのマンガ展示と、ファンや来場者との関係性についてのYuさんのお話がとても印象的でした。大衆文化であるマンガについての研究が、特定の専門を極めるアカデミズムとどのように接続しているのか。来週のトークでは、Yuさんの専門である民俗学や考現学という視点からマンガについて深堀りしていきます。-Mugi

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