No.627, March 31, 2023, 東大への留学ー日本語の母音の無声化, 表現の多様性 with Marco-san

厚いコートを着ずにお出かけ

3月最終日。Marcoさんから「Urbana-Champaignは春っぽくなってきました。今日は厚いコート着ずに出かけました」というメッセージをいただきました。今週の番組収録は、日本時間の3月30日、RyutaさんはShizuokaから、MugikoはKyotoから参加しました。Marcoさんのトークの後半をお届けします。

Magnolia @ Champaign, March 31, 2023, photo by Marco

Part1, 春のカタツムリ。CEPASでAkiraさんの講演

Part2, 東大留学、「ようすんに」に困惑、母音の無声化の研究 with Marco

Part3, 言語学、言葉の世界の面白さ、文化の多様性の発見  with Marco

CEAPSでAkiraさんの講演-江戸時代の「甲州ぶどう」のブランド化

CEAPS Speaker | Akira Shimizu – “Grapes that Connected Peasants to the Shogun: A New Perspective on Early-Modern Japanese Society through Regional Brand Food.”: April 7, 2023, 1:00 – 2:30 pm @306 Coble HallDate

AkiraさんはこれまでHSに4回出演されています。 No.187, October 24, 2014, 江戸のブランド柿with Akira-sanNo.168, June 13, 2014, 江戸のうなぎのお話with Akira-san: No.165 May 23, 2014, Ramen in USA with Akira-san, No.59-2, May 11, 2012,  Akira-sanのアメリカ物語〜神戸からメンフィス、そしてイリノイへ

EOH(Engineering Open House)@UIUC開催中

March31-April1, 9 am-4 pm, 地理学部も出展しています。Wataruさんに会えるかも。

東大で言語学ー日本語の母音の無声化 with Marco

Marcoさんは、ブラジルでの子供時代に日本のアニメや漫画の影響を受けました。高校では、オンラインで日本語を学び、大学入学を機に都市部へ移動、大学には日本語専門のコースはなかったので、日本語専門学校へも通いました(先週のトークの詳細はHS No. 626へ)。大学を卒業して、東京大学へ留学しました。今日のお話は、Marcoさんの修士論文のテーマと、言語学をとおしてふれる文化の多様性についてです。収録は日本時間の3月20日です。今回もMarcoさんに日本語で文章にまとめていただきました。

東大の授業で混乱。「ようすんに」とは?

学部を卒業してから文科省の奨学金をいただき、東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻に進学しました。そこでは初めて日本の大学で授業を受けて、混乱したことがたくさんありました。ブラジルの日本語学校では先生はとてもゆっくりと、わかりやすく話してくださいました。しかし、東大では、最初は教授の日本語を聞き取ることが難しかったです。例えば、先生一人がいつも「ようすんに」という単語を使っていました。(僕にはそう聞こえましたが)。先輩たちに「ようすんに」ってなんですかって聞いたら、先輩たちには僕の質問の意味が伝わりませんでした。時間が経つにつれて、「ようすんに」は「要するに」のことだとわかりました。

日本語の高母音の無声化についての研究

言語を話すとき、「要するに」が「ようすんに」になるような現象がたくさんあります。それらの現象の一つを修論のテーマにしました。具体的に、日本語における高母音の無声化について研究を行いました。母音は「あ・い・う・え・お」のことです。「あ」に比べると、「い」と「う」をいうときに舌が上の位置にあるため、高母音と言います。また、母音は有声音です。つまり、母音を言うときは、声帯が震えています。声帯が震えていない音のことは無声と言います。喉のところに指をつけながら、有声音の[zzzz]と無声音の[ssss]を言うと無声音と有声音の区別がすぐわかると思います。

エレクトログロットグラフで声帯の振動を測定

東京の日本語では「い」と「う」が無声音に挟まれているとき、無声音になってしまいます。「深い(fukai)」の「う(u)」とか「したい (shitai)」の最初の「い(i)」が無声化されます。声帯の振動が測れるエレクトログロットグラフ(electroglottograph)という装置を使ってこの現象を分析しました。

ポルトガル語では若者の方が高母音の無声化傾向

これを修論のテーマにした一つの動機ですが、ポルトガルでも高母音の無声化がみられて、ブラジルの大学の先輩がそれについて研究しました。先輩の影響を受けて日本語における同じ現象を調べました。ポルトガル語と日本語の無声化の一つの違いは、先輩の研究では若者の方が無声化をする傾向が見られますが、日本語の文献によると、年代の影響がないようです。しかし、日本語の場合だと地方の影響が見られます。

「ありがとうございます」、関西では最後のuにピッチアクセント

関西では「ありがとうございます」の最後の「う」にはピッチアクセントがつけて、母音の無声化が見られません。ここではピッチアクセントという概念が出てきましたが、次回ではもっと詳しく喜んで日本語のピッチアクセントについて話をします!言語学の世界ではこのように、母音の無声化、ピッチアクセントなど、普段気づいていない言語の現象の研究がされています。

日本語では「僕」は「君」の意味を持つことも

僕は主に音の研究をしていますが、意味の研究もあります。例えば、日本語で「僕」は「君」の意味を持つことがあります。男の子と話す時に「僕はどう思う?」というのがその一つの例です。言語学の知識は、翻訳に適用もできます。僕は学部生の頃、ファンが作ってくださった字幕付きのアニメを観ていましたが、その字幕では不自然な表現が時々ありました。例えば、日本語では他の人のことを「あの人」とも言います。ポルトガル語で「あの人」を直訳すれば、「aquela pessoa」になりますが、ちょっと不自然に聞こえます。もちろん場合によって違いますが、多くの場合では「ele」(彼)か「ela」(彼女)の方がふさわしいこともあります。このように、日本語とポルトガル語の特徴を知ることは、翻訳における自然さにも関係があります。-マルコ

今日のトークのなかでふれた「ピッチアクセント」と「ファン翻訳」について、Ryutaさんに少し、解説していただきました。

ピッチアクセント:音の抑揚(高低)

日本語 (や、いくつかのアジア言語) は、音の「抑揚」(高低) で単語にめりはりをつけます。これをピッチアクセント (pitch accent) といい、日本語や中国語の場合は、抑揚のちがいで単語の意味を言い分ける (聞き分ける) こともします。一方、英語 (や、いくつかのヨーロッパ言語) は、音の「強弱」で単語にアクセントをつけます。たとえば、日本語では「はし」を「→ ↓」と発音することと、「→ ↑」と発音することがあり、それぞれの場合で意味が変わります。(どちらが「橋」でどちらが「箸」を意味するのかは関東と関西で異なるはずです。)これがピッチアクセントの例です。英語では、例えば “accent” を発音するときには “A – ccent” のように、最初の “a” のところを、(「高く」ではなく) 「強く」発音します。このようなアクセントのつけかたは、ストレスアクセント (stress accent) といいます。-Ryuta

ファン翻訳 (fan translation):

日本発のアニメや漫画にはグローバルなファン層がありますが、正規の翻訳版は必ずしも出版、放送されていないことが、特に少し前は多くありました。そのため、作品のファンが非公式に翻訳や字幕をつけ、インターネット経由で共有する行為が今でも広く行われています。日本語から英語への翻訳だけでなく、スペイン語、ポルトガル語、中国語、韓国語、ベトナム語、タイ語など、ファン翻訳コミュニティはさまざまな言語圏に存在しています。(ただ、著作権法的には著作権の侵害行為にあたります。) 必ずしも言語、翻訳のプロフェッショナルが携わっているわけではないので、マルコさんの例にあるような不自然な直訳や、発話者や対象者の取り違え (日本語は主語を省略することができるので) なども見受けられるようです。ちなみに、日本語→各国の言語だけに限らず、K-PopやKドラマのファン翻訳コミュニティや、英語圏で開発されたデジタルゲームを日本語化するファン翻訳活動もあります。-Ryuta

Marcoさん、Ryutaさん、わかりやすい説明をありがとうございます。普段使っていることばについて、新鮮に考えることができました。アニメや漫画に限らず、いろいろなファンコミュニティのなかでの翻訳という協働の営みとグローバルなコミュニケーションについても、また話題にできたらいいなと思います。-Mugi

■キャンディーズ「春一番」■ Rie Fu「Life is Like a Boat」■ LEO今井「Lemon Moon

Champaign County COVID-19 Cases, Updated on March 24 2023, 11.53AM, CUPHD

 

 

カテゴリー: Harukana Show-Podcast パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です