No. 686-2, May 17, 2024, 「時間と場所をこえて記録をつなぐプロジェクト」第6話、柳沢健の展覧会とDavid Plathとの出会いの足跡

柳沢健とDavid Plathとその時代の今、ものがたり

第686回HS の後半では、3年前に始まった「場所と時間をこえて記録をつなぐプロジェクト」の経緯(Part2)と、朝日美術館で開催されている展覧会「美に求めるもの 柳沢健とその時代」とそこで展示されている「Prof. David Plathとのつながり」を紹介したコーナーについてお伝えしています。朝日美術館の丸山真由美さんから写真とメッセージを届けていただきました。ありがとうございます。

Part2, 時空間をこえて紡がれた物語、David Plathと柳沢健

「場所と時間をこえて記録をつなぐプロジェクト」とは

2021年1月にMugikoは、文化人類学者David W. Plathさん(イリノイ大学の名誉教授、1930-2022)から長いメールを受け取りました。90歳となったPlathさんが日本での最初の調査地(長野県松本市)で収集した資料と油絵「白馬三山」(柳沢健作)を地元のミュージアムに寄贈したい。

Plathさんはこの調査をもとに『The After Hours: Modern Japan and the Search for Enjoyment』(University of California Press, 1964)を出版しました。その挿絵を描いたのが柳沢健さん(1926-2021)でした。当時、信州大学医学部の助教授だった香原志勢(1928-2014)さんからの紹介でした。

Plathさんの手元には、当時を知る人と連絡をとる手がかりはありません。日米の離れた場所を60年という歳月を隔ててつなぐ試みが、HSの番組出演者の協力をえて始まりました。コロナ下において人もモノの移動も制限されるなかで、日米の関係者とEmailでやりとりをし、電話や郵便を使い、人が人を動かし動かされ、点在する情報が時間と場所をこえてつながってゆきました。

“re-connect” stories

Plathさんからのさまざまな調査資料と「白馬三山」は、長野県朝日村の「朝日美術館」に寄贈されました。60年前の資料がどのような経緯で地元に戻ったのか、Plathさんがそこにどんな思い込めていたのか。「戦争」を日米の異なる場所、立場で経験したPlathさんと健さんの記憶も交錯します(第1話第2話)。柳沢健さんは、2021年6月に亡くなられ、健さんのご家族は、海を渡り帰ってきた父・夫の絵と朝日美術館で再会します(第3話)。

日米をつなぐ物語はそこで終わるはずでしたが、その後、健さんの1960年代のスクラップブックが発見されました。そこに貼付されていた柳沢健さん宛のエアメールには、日本語でのPlathさんの生の思いが記されていました(第4話)。Plathさんは、1970年代以降も香原さんの紹介で伊勢の海女の調査を行うなど日本での調査研究をすすめ、また日米間の交換留学制度(Year in Japan)にも取り組んできました(第5話)。

·No.553-2, Oct.29, 2021, 時間と場所をこえて記録をつなぐプロジェクト第1 with D. Plath & 柳沢健·No.554-2,Nov.5, 2021, 時間と場所をこえて記録をつなぐプロジェクト第2話・Illinois&Nagano with D. Plath & 柳沢健&朝日美術館·No.577, April 15, 2022, 時間と場所をこえて記録をつなぐプロジェクト 3 海を渡った父の絵と朝日美術館で対面 ·No.607, Nov. 11, 2022, David Plath, ‘So Long Asleep’、つながりをつなぐ·No.625, March 17, 2023, 時間と場所を越えて記録をつなぐプロジェクト第4話 60年前の柳沢健さんのScrap BookD. Plathさんからの航空便·No. 659, Nov. 10, 2023, 5話ー伊勢志摩の調査:Plathさんと MoritaさんとKoharaさん

re-connect, グローカルな協働と記録と記憶のループ

時間と場所、言葉も世代もこえた協働によって、さまざまな記録と記憶が巡りつながり、シナリオのない物語が紡がれていきました。プロジェクトの詳細はこちらでもご覧になれます。西川麦子 2024「時間と場所をこえて記録をつなぐプロジェクト:グローカルなメディア実践とマルチ・ローカルな協働」『甲南大学紀要 文学編』No.174, pp. 89-106

Part3, 柳沢健展@朝日美術館、David Plathとの60年後の”再会”

朝日美術館では、「美に求めるもの 柳沢健とその時代」(2024年4月4日〜5月26日)を開催しています。柳沢健さんのアトリエには数百をこえる絵が残され、そこから選んだ60点あまりが展示されています。丸山真由美さんが4月29日に会場担当をされた時の様子をお知らせくださいました。

体に馴染んだ心安らぐ原風景

今回の展覧会には柳沢先生を知る方も知らない方も来てくださっています。会場の田園風景を見て、どこの風景か分かる方もいますが、知らない方でも”なつかしい”と感じ、涙ぐんでいかれます。”この木、私の思い出の木に似てるの”と語ってくださる方もいました。柳沢先生にとっての原風景は、多くの方にも共通する原風景なのでしょう。

柳沢先生は現場での実感を大事にして描いておられましたが、実際の風景を丁寧に切り取って写し取るだけでなく、自身が長年一番よく目にし、体に馴染んだ心安らげる風景を描き続けたからこそ、その想いが見るものの心にも届き、じわじわと温めてくれるのだと思います。

ほっと一息つかせてくれる作品に囲まれて、穏やかな気持ちにさせてくれる展覧会になりました。ぜひこの安らぎを多くの方に感じていただければと思います。肉体から自由になったプラース先生と柳沢先生も会場で再会し、一緒にこの”なつかしい”風景を眺めているかもしれません。-Mayumi

心に染みる原風景と「D. Plathと柳沢健の関わり」を知るコーナ

柳沢健さんが心身に深く馴染んだ風景だからこそ、その絵をみる人の奥深い情景にふれ、内側から何がか込み上げてくる。そんな風景画と健さんが収集された画集などの資料の展示とともに、展覧会ではProf. David Plathと柳沢健の関わりを紹介するコーナーも設置されています。

ここにPlathさんの著書、松本市での調査(1959)で撮影した写真や、1964年に柳沢健さんの自宅を訪問した際の写真、この時にプレゼントされた「白馬三山」の油、なども展示されています。

柳沢健さんの地元との思いとつながり、Plathさんの原体験

柳沢健さんとPlathさんが実際に会ったのは、本ができた後の1965年、おそらく一度きりです。柳沢健さんは2021年6月、David Plathさんは2022年10月に亡くなられ、それでも、それぞれの作品と記録が紆余曲折をへて同じ場所に展示されました。不思議な再会の物語です。

それが可能になったのは、柳沢健さんが出身地での風景と活動と地元のつながりを大切にされ、それが作品にも息づいているからこそであり、また、Plathさんが当時、集めた資料を地元に返したいと考えられたのは、Plathさんにとってのフィールドワークの原体験と地元の人々との関係と記憶が、その後のPlathさんを支えてきたからだと思います。

この世とあの世をつないで2人の再会の場所を作ってくださり、そして物語をHarukana Showと共有してくださった朝日美術館の関係者の方々、丸山真由美さん、柳沢一実さん、ありがとうございます。U-Cのコミュニティラジオ局から第6話から放送・配信され、イリノイにも物語を届けることができて、ありがたいです。-Mugiko

クラシックレコードと絵

番組の収録前に、Mugikoは柳沢一実さんと電話でお話し、「柳沢健さんはどんな曲を聞いておられましたか」と尋ねました。「父は、ベートベンやモーツアルトといったクラシックの曲のレコードをかけて絵を描いていました」と話されました。そこで、2曲目は、Ryutaさんと相談して、ムソルグスキーの「展覧会の絵」を選びました。また、一実さんはハワイの曲やロックもお好きで、いくつかのアーティストの名前の中から、NA LEOとエリック・クラプトンの曲を番組ではお届けしました。

WRFUのShow Record Archive2024-05-17-1800.mp3 (55MB) からHS No.686を曲とともに聞くことができます(9分頃から)。

■NA LEO「You Don’t Remember」■ムソルグスキー「展覧会の絵」エリアフ・インバル指揮/フランス国立管弦楽団 ■エリック・クラプトン「Running On Faith 」

T. Yanagisawa & D. Plath@Midori-machi, Matsumoto, 1965

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