こんな時だから、
今週の収録は、日本時間の2025年4月9日(水)3pm-、RyutaさんはOsakaから、MugikoはKyotoから参加しました。放送・配信日がCST4月11日(金)6pm-、その間にアメリカから届くニュースは刻々と変わり戸惑うばかり。
毎月第2水曜日の夜7時からのWRFUの会議が対面とオンラインで開催されます。参加者のそれぞれの都合でばらばらと人が集まり、開始するまでに20分ほどかかります。それまでの井戸端会議のような時間にほっとします。こんな時だから、草の根のつながりが、これからも続きますように。
ことばとつながり
Part1は、日本の花見、米国の「Hands Off!」抗議デモについて、Part2は、イギリス英語とアメリカ英語の違いや、「不法移民」という表現ついて、そしてPart3では、鷲田清一さんと「せんだいメディアテーク」について、関連する新聞記事を紹介しながら、RyutaさんとMugikoがライブにおしゃべりをしています。今回は、「ことば」をとおしてつながりを考えています。
Part1, 花見って?、「Hands Off!」全米、Champaignでも抗議デモ
花びらがはらはらと散るなかで、きめポーズ
Kyotoは、特にSakuraの季節は夕方になっても観光客がとだえず、さまざまな言語がゆきかいます。花びらがはらはらと散るなかで、多くの人が写真撮影に夢中。それにしても、異国の地でも、撮影慣れしたキメ顔、ポーズ、すごいなあと感心します。
場所によっては桜の木の下で近所の人たちかな、花見の宴会。アメリカでは、飲酒をともなう花見ができる場所はかなり限定されると思います。
Hands Off! 手出しするな!
全米で、トランプ政権に対する抗議デモが起きています。Champaignでは、4月5日(土)にWest Side Park に大勢の人が集まったと報道されていました(The News-Gazette, “PHOTO GALLERY: ‘Hands Off!’rally” April5, 2025)。
「Hands Off!」、ハンズ・オフ、手を出すな、さわるな、干渉するな。写真を見ても、各自が掲げているプラカードの文字、内容は、教育、医療、移民、多様性、経済についてなど一様ではありません。一人ひとりの考え方は同じではないからこそ、”Hands Off!”という強く、短く、意味が開かれたことばが、人をつなぎうねりをつくりだそうとしているのかなと思います。-Mugi
*「『手を出すな』と全米でトランプ氏への抗議デモ 英仏などでも」BBC NEWS Japan, 2025年4月7日*「反トランプのうねり、どこまで大きくなればアメリカを引き戻せるのか: ‘Hands Off( Protesters Rally Against Trump in New York」Newsweek, 2025年4月7日 17時45分。
Part2, イギリス英語とアメリカ英語、「不法移民」という表現
3月のHSゲストのNanaさんが、ロンドン暮らしの中で、日本で学んだ英語が、アメリカ英語であることに気づくことがある、というお話しされました(HS No.731-2)。 Ryutaさん自身の英語体験を聞いてみました。
chipsとfriesとフライドポテト
Ryutaさんの場合は、高校時代にオーストラリアに留学して英語が話せるようになりました。場所によって英語表現が異なる例としては、例えば、日本語でいう「フライドポテト」。ポテトを細長く切って揚げたものは、アメリカ英語では「french fries」「fries」ですが、イギリス英語では「chips」。ところが、アメリカ英語では、chipsは日本語で言うポテトチップスのこと(わざわざポテトがつかない)をさします。
日本での英語教育の教え方、学び方
Nanaさんのお話では、イギリス英語では、依頼するときに“Could you….?”と表現することが多く、それに慣れると、”Can you….?”と言われるとドキッとするそうです。アメリカ英語の方が実際に直接的な言い方が多く使われるかのかはわからないけれど、日本での英語の授業で、依頼するときには”Can you….?”と表現すると学んだことを、教科書とおりに現場で使うと状況に合わないこともあるかも、とRyutaさんは話されていました。
そんなトークを、Mugikoは京都訛りの関西弁で、Ryutaさんは落ち着いた標準語っぽい日本語で話しています。
「不法移民」、Illegal Immigrants、undocumented Immigrants
場面によって、立場によって、ことばや表現も変わります。Harukana Showを始めた頃、Mugikoは、WRFUの他のラジオ番組を見学したり、CU Immigration Forumの活動を取材しました。そこでMugikoは、滞在資格を持たない移民を日本語の「不法移民」を直訳してillegal immigrantsと表現しましたが、取材で出会った人々は、undocumented immigrantsと表現していることに気づきました。今度はそれを、日本語に翻訳するときに、どう表現していいのか、戸惑いました。
京都新聞2025年3月7日夕刊に「オーバーステイは犯罪か 刑法犯同列で差別助長 人権に配慮 『不法』を『非正規』に直す動き」という記事があり、次のように記されていました。
「非正規滞在」「無登録滞在」という表現
国連総会は1975年、欧州議会は2009年、否定的な印象をあたえる「不法移民」を「非正規移民」などと表現するよう関係機関に要請した。外国人労働者の人権を守るためだ。日本でも2023年、NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)」が、在留資格のない状態を「非正規滞在」や「無登録滞在」と表現するよう呼びかけるキャンペーンを実施した。-京都新聞2025年3月7日夕刊
*在留資格がない外国人は犯罪者?オーバーステイは犯罪なのか?摘発に感じたもやもや 「不法移民」を「非正規移民」に言い換える動きも YAHOO! ニュース、2025年4月6日(日)9:02配信。
あえて「そうした」話題にふれない
各国で移民に対する政策は異なり、「不法」の法的、社会的意味を同じようには考えられませんが、日本での議論は世界の動きとはずいぶんと時差があります。今日のU-Cでも、人々の会話のなかでは、undocumentedもillegalもどちらの表現も使われています。ことばは、話者の立場や意見をうつしだしてしまうので、日々の付き合いのなかでは、ギクシャクしないように、「そうした」話題にふれなくなりそう。回避される話題やことばのなかにも、人々のあいだの見えない溝の深みがありそうです。
Part3, せんだいメディアテークは「世界一の公民館」
Kiyokazuさん、せんだいメディアテーク(smt)の館長を退任
Part 3, では、鷲田清一さんのエッセイ「世界一の公民館」京都新聞2025年4月6日(日)朝刊を紹介しました。冒頭にこう記されています。
「この3月末で、12年間毎月通った『せんだいメディアテーク』の館長を退任しました。
メディアテークは宮城県仙台市の生涯学習施設だ。七階建のユニークな建物は伊東豊雄氏が設計した。館内には図書館やギャラリー、シアター、スタジオなどがあるが、シアター以外は壁がない。….
市民の文化活動や表現活動を支援するのがこの施設のミッションなのだが、その名称から想像されるような先端のメディアテクノロジーやメディアアートの展示はない。実態は逆で、集まった市民がまるで『部活』のように顔を突き合わせてローテクの活動を繰り広げている。スタッフはそれらの活動に機材を貸し出して、求められれば活動のかたちが定まるまで伴走する。」
2025年4月6日掲載のエッセイの最後に鷲田さんはこうまとめています。
異なった場所にいる人と人をつなぐ「媒質」(メディウム)
「メディアテークも市民自身の学びに、探究に、いっしょに走ろうとしてきた。難題に向き合う人を、別の角度から同じ問題に取り組む人につなげようとしてきた。異なった場所にいる人と人とをつなぐ『媒質』(メディウム)であること、それこそがメディアテークのミッションだと、任期の最後になって気づかされた。」
*せんだいメディアテーク、館長、れんらくノート。「3月23日(日)、鷲田清一とともに考える 最終回が開催されました。」2025年03月24日更新
Kiyokazuさんとsmtからの励ましと刺激、草の根の記録をつなぐ
smtの館長に着任された2ヶ月後の2013年6月に、鷲田さんはKyotoから、KiyokazuさんとしてHSに出演されました。UrbanaのWRFUスタジオには、RyutaさんとTomさんが駆けつけ、6月14日、現地の真夜中に、特別ラジオ番組を生放送しました。その後、Mugikoは、HSのメンバーと共にsmtを訪問しました。人々の手によって草の根の記録をつなぐsmtの活動からは、強い刺激を受けました。
2025年4月6日の京都新聞の記事を読んだ時、Mugikoは、12年前に鷲田さんがHSについて紹介された文章が蘇ってきました。一部抜粋します。
市民がメディアになる、問題解決の糸口を市民みずからが紡ぐ
「市民がメディアを<利用する>のではなくて、メディアに<なる>? 見知らぬ人たちをつなぐのは結局「人」だということでしょうか。取材をするはずのこの番組にわたしも出演することになったのですが、途中、放送機器に不具合が生じ、放送ではそんな舞台裏の様子まで気配ごと伝わるのでした。アメリカのスタジオとやりとりしながら修繕するなかで、日本語を介さない初対面のスタッフと対話が生まれるとはつゆ予想していませんでした。
市民として成熟しているというのは、社会のなかで生じているさまざまな問題の解決の糸口を、市民みずからが紡いでいけるということです。問題解決のコンテクストをじぶんたちで編めるということが、市民がメディアになるということだったのです。」
*京都新聞2013年7月22日(月)「鷲田清一のラジオカルラジオ ⑦ON AIR 本日のテーマ イリノイのFMで流れる京都の声、超ローカル でもグローバル 見知らぬ人をつなぐのは『人』」*No. 126, August23, 2013「鷲田清一のラジカルラジオ」&作戦会議*
2013年の鷲田さんのこの記事で述べられているような、「社会における問題の解決の糸口を市民自らが紡いでいく」という点は、今日のアメリカの状況においていっそうに重く響きます。
ところで、「世界一の公民館」とは?
今回、HSの収録で、鷲田さんの4月6日の記事を音読しているうちに、このエッセイのタイトルにもなっている言葉に、頭の中でつまづきました。
「『メディアテークは世界一の公民館です』。送別イベントで、後任のロバート・キャンベルさんが突然、こう言い放った。『公民館?』なんかすとんと腑に落ちた。」
このエッセイのキーワードである「公民館」を、アメリカのラジオ番組でどう説明するのか。さらに、ここでいう「世界一」にはどんな意味が込められているのしょうか。Ryutaさんがトークのなかで、アメリカでは日本と同じような公民館が存在せず、公共図書館が地域の生涯教育の拠点として多角的な機能をもって展開してきたと話されました。
公民館なるものの普遍的な要素〜人をつなぐのは人
日本では生涯学習施設が、図書館や公民館や美術館、博物館など、それぞれに存在してきたけれど、smtはそれらの機能をより複合的に備え、しかし行政指導ではなく、あくまでも利用者を主体として、場所に拠点をもつ活動を育ててきました。だからこそMugikoにとってsmtは、U-Cの公共図書館と有志が運営するNPOのUCIMCやWRFUの活動と重ねてみるほうがわかりやすい気がしていました。
でも、ローバート・キャンベルさんが、日本的な「公民館」にあえて世界一と表現されるのは、「公民館なるもの」には、市民が主体として関わるという大前提があり、実際にsmtに関わってきた人々のあいだで、人に寄り添って、市民とともに活動を展開してきたという自負と足跡が共有されているからだと思います。公民館という日本ローカルなものをグローバルな視点から見たときに、smtが大切にしてきた「人をつなぐのは人だ」という草の根の活動の普遍的な要素がクローズアップされ、そこで世界一という表現が生まれたのかな、とMugikoは想像しました。
鷲田さんのことばは、さまざまな人のその時とこれからに伴走してこられたことをMugikoはHSの番組作りの現場をとおして実感しています。遠く長いつながりに、深く感謝いたします。-Mugi
*No. 115, June 7, せんだいメディアテークって?「人がアクティブになれる場所」、*No.116 June14, 2013 「ラジカルラジオ」とのコラボ!with KIYOKAZU-SAN *No. 117, June21, 2013「壁がない」〜市民が主体の記録、表現装置 with KIYOKAZU-SAN *No. 126, August23, 2013「鷲田清一のラジカルラジオ」&作戦会議
*No.171, July4, 2014, Harukana Show トーク@せんだいメディアテークwith Tateishi, Tsujino & Mugiko*震災と、記録と言葉と場所について考える旅、July12, 2014*No.361, Feb.16,2018,「わすれん!」とremoとIMCと、ゆるやかなつながり*Blog:「星空と路」上映室と「シネマてつがくカフェ」で考えたことー記憶を記録に閉じ込めず対話を開く Feb.27-28, 2016
◼️Tom Waits 「Johnsburg, Illinois」◼️Tom Waits「New Coat of Paint」◼️Tom Waits「I Hope That I Don’t Fall in Love」
音楽入りの番組全体は、WRFUのHSのShow Archive へ。HS No. 733, April 11, 2025はこちらです。