今週、Harukana Showを無事に放送・配信!
先週は、Harukana Showをお届けできず、ご心配をおかけしました。WRFUスタジオのPCのソフトウェアが想定外の時間に自動更新され、その間、番組が放送・配信されませんでした。今週は、WRFUのメンバーがPCのチェックをし、ソフト自体にも問題はなかったようです。リスナーの皆さんからの励ましもありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いいたします。-Mugiko
Part1, 先週のハプニングの解説-Mugi
Part2 & Part3は、GISシリーズNo.10。Wataruさんが今、どんなことに関心をもち研究を進められているのか、進行形の生き生きしたお話をお楽しみでください。Podcastの文章も、Wataruさんにまとめていただきました。Wataruさんの前回のトークは No. 646をご覧ください。
Part2, イリノイ大学でPhD取得、GISとコロケーション with Wataru
Part3, 健康地理学への応用、共同研究の可能性、社会問題への取り組み with Wataru
PhD取得までの道のり
先日、イリノイ大学地理学専攻で無事にPhDを取得しました。プログラム入学からPhD取得までには、Qualifying Exam, Preliminary Exam, Final Defense の3つの大きな試験がありました。地理学専攻 GIS分野の場合、Qualでは、Committee member (指導教員と副査2人) の先生方と相談しながら、およそ論文50本のリーディングリストを作り、エッセイと口頭試問を受けます。Prelimでは、Dissertation(博士論文)のProposal(研究計画書)をLetter サイズ15枚ほどで作成し、公開でのプレゼン発表とCommittee member (指導教員と副査3人) との口頭試問をおこないます。Final Defenseでは、 Dissertation を書き上げ、公開でのプレゼンおよび委員の先生との口頭試問に合格し、晴れてPhD取得となります。博士論文の要件は Academic journal に投稿できる質の Research article 3本分以上のようで、私も事前に3本出版していた関連のものを大きなひとつの博士論文としてまとめました。
GISとコロケーション
改めてですが、私の専門 GIS は Geographic Information Science (地理情報科学) の略で、空間(主に地表)に関連する情報をコンピュータでいかに系統的に取得・管理・分析・伝達するかの方法論を追究する学問です。グーグルマップやカーナビが広く知られるGISの応用例です。
私の博士論文は、“分析”に主眼をおき、Network dual K function というコロケーション(共立地な空間分布)を正確に分析できる統計手法の開発をおこないました。その手法を用いて、美容院の傍に歯医者ができやすいなど、ある種類の店舗の近くにどんな別の種類の店舗が立地する傾向にあるのか、電話帳データに適用した実証研究もおこないました。ビジネスマーケティングへの利用が期待されます。
健康地理学への応用、よく歩く近隣環境とは?
店舗分布が日常生活にどう作用するのかも気になったので、ウォーカビリティ(近隣の歩きやすさ)と組み合わせた研究もおこないました。居住地から最寄りのスーパーマーケットへの近接性およびそのスーパー周辺の食料品店(八百屋・魚屋・肉屋・パン屋)集積度が、日本の高齢者の日々の歩行活動量(万歩計の歩数)とどう関係しているかについて調べた結果、高齢女性については、最寄りスーパーに適度に近い(およそ500 m)、または独立の食料品店が最寄りスーパー周辺に集積している環境に住んでいる人々の方がより歩く傾向にあると分かりました*。
*詳しくは、こちら。Wataru Morioka, Mei-Po Kwan, Kimihiro Hino & Ikuho Yamada (2023), “How accessibility to neighborhood grocery stores is related to older people’s walking behavior: A study of Yokohama, Japan”, Journal of Transport & Health, 32, 101668, doi:10.1016/j.jth.2023.101668. 50 days free access at https://authors.elsevier.com/a/1hWFI7tR-3MpJK
GIS×○○
GISは “どこ“ をベースとしながら異分野とコラボできる、学際的な学問であることが強みの1つです。上述の研究では、食料品店を取り上げ健康、都市計画分野へ適用しましたが、今後もさらにアレンジしながら、他の施設間あるいは人との空間関係についても調べていきたいなと思っています。放送では、図書館が話題になりましたね。文化施設への近接性と人々の暮らしとの関係も調べてみたいところです。
ポスドク研究員、GISと疾病・健康地理、Spatial Justice
ちなみに、幸い8月からもイリノイ大学地理学部でポスドク研究員をします。これからポスドクでお世話になる研究室も、GISを疾病・健康地理に応用する研究を主軸に活動しています。イリノイ大学地理学部のGIS系研究室群では、Spatial Justiceなど社会問題の解決を意識した実証への応用が特に重要視されており、理論と実証バランスよく私も取り組む予定です。鉄道車両基地や病院にフォーカスを当てたプロジェクトも進行中で、またの機会に詳しく話します。-Wataru
「ついでの動線」を測る
今回のWataruさんのコロケーションのお話を、Mugikoは自宅から半径500メール内にある複数のスーパーやパン屋さんやカフェや本屋や銀行やいろいろなクリニックを思い浮かべ、ついでに、どこにどんなふうに立ち寄るか(その時に、どんな人たちを見かけたり、見られたりしているか)を想像しながら聞きました。「ついでに」という言葉は便利だけど、ついでだから、暮らしの中でそんなに意識していない。それを、どうやって測り、分析するのだろうと、ますます興味を持ちました。
5Ds:歩きやすさを測る指標
そこでWataruさんが説明されたのが、5Dsという歩きやすさを測る指標についてです。5つのDとは、Density(人口密度がある程度高い街の方が賑わいがあって人がよく外にでる)、Diversity(異業種が集積している場所の方があちこちに立ち寄る)、Design(歩道のデザイン)、Desitination of accessibility(目的地への近接性)、Distance to public transit(公共交通機関への近接性)です。
社会問題の提示や解決に資するGIS研究
Wataruさんは特に4つ目の目的地への近接性に注目し、食料品店を対象に設定しました。Wataruさんが提案した方法論を応用して、Ryutaさんがトークの中でふれたように図書館と地域の「賑わい」作りを測ることもできるようになるかもしれません。社会的テーマを扱い、その問題化の提示や解決にも資する方法論を考えていくというGISの方向性についても、またぜひお話を聞いてみたいです。というわけで、これからのGISシリーズも、ますます楽しみです。-Mugi
■Vanessa Carlton- A Thousand Miles ■Creepy Nuts – のびしろ■Rihwa – ハイタッチ